経法学部研究報告紹介2017-2018
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16総合法律学科総合法律学科より良い行政活動を実現するための手続のあり方を探求する民事紛争における「力」の行使の抑制とその解決・調整 国や都道府県、市町村といった行政の多種多様な活動に関する法分野である行政法を研究しています。行政法には様々な領域がありますが、行政活動の手続面に着目して、その活動の前後を通じて統制を加える領域(行政手続、行政上の不服申立て、行政訴訟)を中心に、最近では情報公開、個人情報保護などの行政情報の取扱いに関する分野や、地方自治に関する分野などにも研究の幅を広げています。 近時、法律に基づいて行政により行われる多くの規制がイノベーションを阻害する事例が散見されています。また、様々な地域的課題の解決のために、条例などによる新たな制度設計が求められています。将来的には、そうした最新の課題にも取り組んでいきたいと考えています。  私が研究しているのは、財産や家族関係といった民事の領域における紛争(民事紛争)の解決・調整の手続(民事裁判)を定めた民事手続法です。ここには、民事訴訟法や民事執行法、倒産法といったものが含まれます。 紛争の一方当事者が、先生や上司といった立場上の「力」を利用して自分の都合を相手に強制する場合には、話し合いによる解決は困難であり、国家の強制力を背景とした民事裁判に訴え、その解決・調整を図ることになるでしょう。しかし他方で、その国家の「力」が適正に行使されなければ、こんどは国家の強制力が民事の領域に不当に介入する危険をもたらすかもしれません。民事手続法とは、この二つの「力」を抑制するうえで、どのような手続が適正なのかを考えていく研究分野なのです。 行政活動に手続面からの統制を加えることを通じて、より良い行政活動が行われることが期待されます。最近、この分野で大きな制度改革が行われたため(行政不服審査法の全面改正)、まずは、その運用の定着、改善、さらなる制度改革のための貢献をしていきたいと考えています。今後は、他の法分野、学問領域と連携し、それらの知見を取り入れながら、イノベーションの促進や地域課題の解決のための法制度の構築、運用に向けた提言をしていきたいと考えています。 教育面では、社会的課題の中から法的課題を抽出し、解決していくための思考を身につけることを目的に、講義(行政法など)、演習(行政法演習)、実習(行政法務実習)を実施しています。行政法を学び、公務部門に進む場合、法令、条例等の運用を適確に行うことに加え、政策課題を発見し、条例等の法制度の構築を通じて解決することが期待されます。民間部門に進む場合でも、法令、条例等による様々な規制との関係を整理した上で、事業活動を円滑に展開していくことが期待されます。 民事手続法を学ぶことは、大きく二つの意味において有益です。一つは「力」の抑制です。民事手続法には国家による強制力の行使を適正に規律するという側面があり、そのための方法を考えてきた長い歴史があります。社会には、事実上の「力」関係に訴えようとする人たちが少なくないですが、これにどう対処するかのヒントを民事手続法を学ぶなかから得ることができます。 もう一つは紛争の解決・調整です。民事手続法が規律する民事裁判は、国家の強制力により民事紛争の解決・調整を図る手続ですが、国家にすべてお任せでよいわけではありません。紛争の両当事者には、自らが信じるところを主張し、証拠によって裏づけて、裁判官と相手方を説得する責任があります。ここには、意見の異なる相手との関係をどう解決・調整するかのヒントが隠れています。 社会生活は様々な人びととの関わりのなかで営まれます。したがって、こうした知見は将来どのような進路を選んだとしても不可欠であり、必ず役に立つでしょう。 近年の主な成果として、①「執行力概念の再検討」信州大学経法論集1号、②「事業再生ADRの法的位置づけ」『会社法・倒産法の現代的展開(今中利昭先生傘寿記念)』所収、③「『破産管財人論』再考」『民事手続の現代的使命(伊藤眞先生古稀祝賀論文集)』所収など、また、④研究課題「倒産処理におけるガバナンス論の構築―倒産裁判所の機能を中心に」に対して科学研究費助成(基盤C)を受けているほか、⑤日本民事訴訟法学会理事を務めています。行政法演習:県の総合計画策定に向けた施策提案会行政法務実習:実習の成果報告としての市への政策提言裁判制度をはじめ、すべての法・制度は、憲法の下にあります(画像出典:『あたらしい憲法のはなし』13頁(童話屋、2001年))大江 裕幸 准教授河崎 祐子 教授東京大学大学院修士課程修了、同博士課程単位取得退学、2010年より信州大学経済学部講師、14年より同准教授、16年より経法学部准教授(現職)、17年より社会基盤研究センター法制企画部門長(現職)。筑波大学第一学群社会学類卒業、一橋大学大学院法学研究科修士課程、同博士後期課程修了後、駿河台大学法学部、東北大学法学部勤務を経て、2012年から信州大学法曹法務研究科、17年から同経法学部に所属。一橋大学より、修士(法学)、博士(法学)の学位を授与。研究の未来と卒業後の将来像研究の未来と卒業後の将来像主な研究事例

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