経法学部研究報告紹介2017-2018
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13応用経済学科応用経済学科地域調査、統計データ分析から地域差をもたらす要因を探るデータとの付き合い方をゆっくりじっくり考える 地理学、すなわち様々な現象が地域によりどのように分布しているのか、また、その理由は何かを明らかにする分野の研究を行っています。 例えば、長野県は平均寿命が長い県ですが、全国の平均寿命の地域差はどのような分布を示すのか、経年的にどのような変化をしてきたかを分析します。次に地域差をもたらす要因について、様々なデータを統計手法などにより探索します。死因の地域差、医療費の地域差などとの関連も明らかにしていきます。地域差がある現象は、社会科学の分野に限りません。自然環境全般(気候、地形など)との関連も検討し、広く地域差の要因を分析することにより、研究結果を社会に還元することが可能です。 私の専門の「計量経済学」と呼ばれる分野は、ミクロ経済学やマクロ経済学の経済理論と統計学の境界分野で、理論の仮定・結果などを現実の経済データ(GDP、金利、株価など)を用いて分析・評価することを主たる関心としています。計量経済学の分野の中で、私の研究対象は時間に依存するデータ(時系列データ)です。例えば、ニュースで見かける求人倍率・失業率は時系列データに含まれ、日々多くの時系列データに囲まれていることがわかります。私の研究は経済データから「どのような意味を?」、「どこまで引き出すことが出来るか?」に関心があり、この問題を解き明かすための統計理論の開発・研究を行っています。  環境問題に関する研究・教育も行っています。長野県の中央に位置する諏訪湖は、水質汚濁が問題となりましたが、様々な水質浄化対策が実施され、徐々に浄化しています。しかし、浄化とともに水草が繁茂するようになり、景観が悪化したと感じる人が多いことが住民アンケート調査によりわかりました。水質浄化により住民の生活環境が全て改善したとは言えないなど、新たな問題が生じ、環境問題には終わりがないとも言えます。 行政、企業などでは、環境問題への対応が求められる場面が多くなっています。環境問題への対応には、住民意識に配慮することが求められており、研究成果は行政への提言材料として提示しています。 経法学部では、情報処理教育、地域差把握のためのGIS(地理情報システム)を用いた実習を行い、さらに、地域調査に出かけるというサイクルの教育を担当しています。情報処理能力は、地方自治体、民間企業への就職後も、大学での教育成果を直接スキルとして発揮できるものです。 近年、経済データなどのエビデンスに基づいた議論を展開することが推奨されています。思い込みなどの主観的な判断を回避するために歓迎されるべき方向性だと思います。しかし、統計理論はデータにより得られる知見には限界があることも示しています。(例えば、右のグラフのように、ゲーム内に出現するデータを考えてみれば、データを生み出すプログラムが存在することはゲームなので自明ですが、どのようなプログラムなのか観測されたデータからわかることには理論上限界があります。) 個人的には、データの分析結果に振り回されることなく、データとのある程度適切な距離感・付き合い方を少しでも提案出来ればよいかと思っています。  卒業後に関してですが、データ分析能力を持った人に対する需要は多いのに対して、確率論・統計理論の習得が難しいせいか満足に人材を育成出来ていないように思われます。このような状況ですので、確率論・統計理論をしっかり学んだ学生に対しては民間部門・官公庁での様々な分野での活躍の場があるように思います。好ましい(左)・好ましくない(右)と感じる住民が多い諏訪湖の水草景観(住民アンケート調査による) GDPや金利などの異時点間の影響・相関が強い経済時系列データに応用可能な確率理論の研究を行っています。特に、モデルの構造に関する情報を極力仮定しないノンパラメトリック統計理論の推定問題とその応用に関心があります。 また、近年では莫大な数のデータを扱う高次元統計理論・ビッグデータ解析に関する研究も行っています。 女性の老衰による死亡率が全国平均より高い地域(青)、低い地域(赤)、全国平均並みの地域(黄)近畿~東北南部の状況(左)、長野県市町村の状況(右)(『平成20年~平成24年人口動態保健所・市区町村別統計』 標準化死亡比による)2016 年に流行したソーシャルゲームに登場するキャラクターの重さ と高さをプロットしたものです。直線は最小二乗推定法(この理論は統計学の推定理論における基礎的な理論で、「計量経済学」の講義内で提供されます。)により推定したものです。データの背後に右上がりの直線関係があることがわかりますね。 柳町 晴美 教授矢部 竜太 講師東京大学理学部卒業、東京大学大学院理学系研究科地理学専門課程博士課程単位取得退学。信州大学経済学部、山地水環境教育研究センターを経て、経法学部教授。この間、UCサンタバーバラ校、ニューヨーク州立大学バッファロー校客員研究員も務めた。一橋大学経済学部卒業、一橋大学大学院経済学研究科博士課程修了、 (経済学博士 )、日本学術 振興会特別研究員 DC2、PD を経て現職。 専攻は計量経済学、統計学。研究の未来と卒業後の将来像研究の未来と卒業後の将来像主な研究事例

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