経法学部研究報告紹介2017-2018
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12応用経済学科応用経済学科観察できない健康水準を考慮しながら人々の受診行動を明らかにするフィールドワークで都市計画の社会的プロセスを分析する「まちづくりの社会科学」 専門は医療経済学です。私たちは病気になったとき、医療保険を使うことで安心して医療サービスを受けることができます。ところが保険は医療を必要とする人を、健康な人が支える仕組みですので、少子高齢化社会では健康な世代の負担が多くなるかもしれません。また保険は価格を下げる効果を持ちますので、悪用する人がいると支え手の負担は大きなものとなります。さらに治療結果は予測できず、医療専門職と患者さんの間には知識の差がありますので、これが悪用されると患者さんは大きな損をします。誰もが健康で幸せな生活を送り、真面目な医療専門職の努力が報われるために、医療制度の問題をデータを使って明らかにしたり、そのための分析方法の開発が必要で、そのための研究に従事しています。 「まちづくりの社会科学」をテーマに研究しています。従来、まちづくりを研究してきたのは主に工学系の分野ですが、望ましい都市を計画しようとする工学に対して、「なぜそのように計画されたのか」「計画通りに動かないのはなぜか」というふうに、都市計画をひとつの社会的現象として分析するのが社会科学の立場です。都市のあるべき姿を提示し、将来の変化を予測する工学が未来志向の学問であるのに対して、過去のプロセスを解明する社会科学は後向きの学問かもしれません。しかし、規範や予測を示さないからといって役に立たないわけではなく、都市計画をめぐって生じた行為や因果のプロセスを明らかにする研究は、反省的思考を通じて新しい都市計画のあり方にフィードバックされることが期待されます。 人々が生まれてから亡くなるまでの医療費を追跡することができれば、生涯医療費の計算でき、保険料を設定する材料となるでしょう。ところが、人が生まれてから亡くなるまでのデータは、なかなか手に入るものではありません。またいつ病気になり、いつ医療費をたくさん使うのか誰もわからず、確率的なものとなります。そこで、仮想的な個人を想定して、確率的な要素を入れながら、生涯医療費のシミュレーションを行うなどの方法が考えられます。数理的な道具を使って、現実の政策を考えることができるようになります。 また現在、子供医療費の無料化が多くの自治体で実施されています。少子化対策の一環としてなされたはずですが、果たして政策の効果を実現できたでしょうか?経済学では統計的な手法を使って、これを検証したりもします。人々の観察できない医療や生活データを取り入れながら、健康な人とそうでない人の行動パターンを分離して分析する方法も開発しており、これらの道具を使いながら、望ましい政策のあり方を考えることができます。 これまでの都市計画は、急速な都市化に対応するため、効率性や公平性を重視したトップダウン型のまちづくりであり、都市が縮小する局面では機能しなくなったことが明らかにされています。これに対して近年では、最初から大きな画は描かない個人やネットワークによるゲリラ戦術的なまちづくりから、いくつかの成功事例が生まれています。こうしたトップダウンによる計画や制御とは対極的なプロセスを分析するには、ボトムアップ型まちづくりの担い手となる個人のライフコースや生活行動、そこで形成されるコミュニティやライフスタイルについて、フィールドワークによって綿密に分析する社会科学的なアプローチがより重要になると考えられます。 このように、今後の都市縮小局面は、組織よりも個人がまちづくりで中心的な役割を果たす時代であり、行政でも民間企業でも、新しいまちづくりのプロセスを理解した人材こそが、地域においてキーパーソンになるはずです。 誰もが受け入れる前提で生涯医療費をシミュレーションしたり、人々の観察できない健康水準(健康な人 vs そうでない人)を考慮した受診行動を探っています。 調査成果をまとめた書籍「信州まちなみスタディーズ〈佐久穂〉:谷あいにたたずむ近代化の遺構」と「信州まちなみスタディーズⅡ〈小諸〉:坂のある城下町の曲がり角」左上:リノベーションまちづくりの調査(長野市)左下:調査の現地報告会(長野市)右:ゼミ生による商家再生プロジェクト(佐久穂町)増原 宏明 准教授武者 忠彦 准教授1999年一橋大学経済学部卒業。一橋大学大学院経済学研究科を単位取得退学後、2005年より国立長寿医療研究センター、2009年より広島国際大学医療経営学部講師。2016年より信州大学経法学部准教授。専攻は医療経済学、応用計量経済学。1997年東京大学理学部卒業。メーカー勤務を経て、2006年東京大学総合文化研究科博士課程修了。同年より信州大学経済学部講師、2008年より准教授、2014年より現職。専攻は人文地理学、都市政策。研究の未来と卒業後の将来像研究の未来と卒業後の将来像主な研究事例主な研究事例25~60歳までの医療費シミュレーション(左が年齢階級別、右が合計額)です。80%の人は400万円以内に収まります。医療費のシミュレーションでは乱数を使いますが、きれいな乱数でなく汚い乱数を使うための方法を提案しました。

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