経法学部研究報告紹介2017-2018
12/28

11応用経済学科応用経済学科よりよいマッチングを実現する仕組みをつくる企業が本来の能力を発揮できるようにするために、法律がどうあるべきかを考えてみる 私はマッチング理論を専門にしています。マッチング理論は、男性と女性、 大学生と研究室、社員と職場といった2つの異なる集団に属する人と人(あるいは人と組織)をどのように組み合わせればよいかという問題を数理的に分析します。人々の好みを反映した望ましい組み合わせを見つけることを目的としています。マッチング理論を用いれば、例えば、合コンにおいて「全ての人が可能な中でベストな相手とカップルになっている組み合わせ」を見つけることができます。大学生のゼミ所属や社員の職場配置の問題においてもこのような組み合わせを見つけることができ、幅広い応用先を持ちます。 企業の経営、特に、お金のやりくりの問題を、研究しています。たとえば、お金のやりくりに行き詰まると、企業は倒産してしまいます。倒産と聞くと、その企業の命運が尽きてしまうと思う人も多いでしょう。でも、経済学の考え方は、少し違います。お金のやりくりができなくなることと、その企業の仕事に価値が無いこととは、別の問題だと考えるのです。もちろん、価値が高い仕事をしている会社だからといって、「借金の返済は気にせず、そのまま仕事を続けて」となったら、お金を貸した人は、怒り出します。そんな時、できるだけ良い解決策に向かわせる役割を果たすのが、法律なんです。企業がお金の問題にばかり悩まず、本来の能力を発揮できるようにする社会基盤として、法律がどうあるべきかが、研究テーマです。 マッチング理論は数学理論です。私の研究風景は机でノートとペンを片手に一日中数式と睨めっこしている感じです。一方で、マッチング理論の成果は現実の制度を設計するうえで極めて役に立つことが近年認知され始めています。例えば、学生の公立学校への割り当て、研修医マッチング、臓器移植といった問題にマッチング理論は応用されています。今後も、様々な現実問題にマッチング理論の成果が応用されることが期待されます。私自身は現在、マッチング理論の枠組みを用いて「企業合併(もしくはジョイントベンチャー)の規制政策」について分析を行っています。 学生はマッチング理論を通じて論理的思考力を身に付けられます。現実に存在する制度の良し悪しを論理的に議論することができるようになります。また、初歩的なコンピュータープログラミングの技術を身に付けられます。これらの能力は、学生の皆さんが将来どのような進路を選ぼうとも有益なものになります。 社会現象を、見た目で直観的に判断すると、大事な問題を見落とす恐れがあります。たとえば、倒産件数が多くなった時、倒産した企業を救済することを重視し、借金の返済猶予を認める法律を作るとどうなるでしょうか?一見、企業にとって、好ましい法律のように見えます。しかし、お金を貸す銀行などからみれば、「きちんと返済がなされない恐れが高まった」と考え、企業にお金を貸すことをためらうようになるかもしれません。すると、企業は、仕事に必要なお金を貸してもらうことができなくなって、かえって困ったことになる恐れがあります。こうした、法律を作る際の周辺への波及効果や副作用は、経済学的な視点で考えることで、見えてくる面が多々あります。そして、経済学的な考え方は、社会データを用いた実証分析で、その妥当性の検証を受けてきています。ゼミの学習では、各ゼミ生が、経済学的な考え方を応用したテーマを取り上げ、自らの考えの妥当性を、データを用いた実証分析で検証しています。過去には、研究成果が懸賞論文で入賞するなど、プロの研究者とは一味違う、大学生ならではの興味深い分析を行ってきています。 ジョブローテーションにおける望ましいスケジューリング方法の提案:ジョブローテーションとは同一企業内で社員が定期的に職場異動を行うことを意味し、多くの企業で行われています。ジョブローテーションのスケジュールを適切に定めることは組織の運営において重要な要素になります。 私の研究ではマッチング理論の枠組みを使って、社員と職場の好みを反映した望ましいジョブローテーションのスケジューリング方法を分析しています。 現実の問題に直接適用できるスケジューリング方法の設計を目的としています。中林健「私立高校の入学者確保の手段としての甲子園出場:都道府県別の甲子園大会勝率に関する分析を通じての考察」2015年度 日本統計協会懸賞統計論文・学生の部優秀賞2014年度 信州大学経済学部ゼミ合同発表会最優秀賞赤沼喜生・今枝翔馬「Yahoo!のEコマース無料化の影響」2013年度 信州大学経済学部ゼミ合同発表会優秀賞マッチングを表す図です。一つ一つの点は人や組織を表しています。点と点の結びつき(線)のことをマッチングといいます。マッチング理論は人々の好みを反映した望ましいマッチングを見つけることを目的としています。ゼミの学習では、数学を用いたモデルで企業行動について検討することで、経済学的な考え方を身につけていきます。大学生ならではの、ユニークなアイディアで、実際のデータを用いた実証分析の結果を報告します。坂東 桂介 講師広瀬 純夫 教授2008年、東京工業大学工学部卒業。2013年、同大学の博士課程修了。同年、日本学術振興会特別研究員(PD)。 2014年、東京工業大学社会工学専攻・助教。2016年、東京理科大学経営学部・助教を経て現在に到る。2004年3月:東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。博士(経済学:東京大学)2004年、信州大学経済学部講師、2009年、同准教授を経て、2014年、信州大学学術研究院社会科学系教授。BD研究の未来と卒業後の将来像研究の未来と卒業後の将来像主な研究事例【ゼミ生の主な研究成果】

元のページ  ../index.html#12

このブックを見る