経法学部研究報告紹介2017-2018
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10応用経済学科応用経済学科生産性の切り口から、地域間格差の要因を探る行動データから、よりよい社会の仕組みを設計する 日本の産業別生産性を計測するJIPプロジェクトと、その姉妹版で地域別・産業別の生産性を計測するR-JIPプロジェクトに近年携わってきました。生産性の正確な計測のためには、産出と生産要素投入をできるだけ正確に測る必要がありますが、特に地域レベルでその分析を行うには、単純なデータ上の制約に加えて、地域分析特有の困難があります。例えば、サービス産業の多くでは「消費と生産の同時性」があり、地域間価格差をどのように計測するかという問題が生じます。また、地域を跨って事業活動を行っている企業では、本社活動によって生まれる本社サービスを他地域の事業所の中間投入として扱って二重計算を避けるという問題があります。こうした課題を一つ一つ解決していく作業に取り組んでいます。 サイエンス(Science)としての経済学を目指す、実験経済学(行動経済学)という新分野が専門です。「実験室」内でオークションや、取引相手との交渉などを模したゲームを設定し、参加者に取引や交渉を行ってもらい、その行動結果をデータ化して統計的に分析します。これまでの経済学では、抽象的・経験的に人々の行動を想定するのが常でしたが、実際に測定してみると、「競争が激化しやすい競上げ入札の方が悪意を持った入札を排除しやすい」とか、「利害が対立する場面の方が、人間の社会性が発揮される」といった思いがけない結果をデータが語り始めます。発見を受けて、理論を見直し、新たな政策提言を発信します。 EU(欧州連合)が最近直面している経済的困難や、2016年の米国大統領選挙の予想外の結果に背景には、地域間格差の問題があります。また、日本では、今後数十年確実に予想される人口減少・高齢化のなかで、生産性と一人当たり所得の低い地域は人口流出が自然減に加わってさらに一層厳しい現実に直面することが予測されています。こうした背景から、われわれのプロジェクトで作成しているデータは、「平成27年版経済財政白書」、「平成27年版労働経済白書」、「平成29年版通商白書」を始め、多くのところで引用・活用されています。また、JIPデータは、EU-KLEMS及びWorld-KLEMSの日本データとして、国際比較に利用され、様々な政策分析に活用されています。 大学で経済学を勉強した人の強みの一つは、データ数字を使って社会を分析しその未来を議論できることです。これから日本が直面する人口減少と高齢化は、世界に先駆けて直面する困難であり、そのなかで有効な政策提言やビジネスモデルを提示できる人材が求められています。 実験手法の強みは、過去の経験やデータが存在しない新たな問題について、分析のメスを入れられる点です。環境や人口問題など、人類が初めて直面する持続可能性の諸問題にも応用することができます。さらなる特徴は、実験手法を介して、他の分野と連携することができる点です。脳科学や進化生物学などの理系分野まで、連携・応用の可能性は無限大です。 現在は、社会心理学・理学・農学・医学の研究者を含む研究チームを経法学部内に立上げ、松本市の協力を得て新たなプロジェクト Future・Designを開始しました。詳しくは、http://www.shinshu-u.ac.jp/faculty/ econlaw/research/post-18.php 実験経済学の受講生は、実験を体験し、実験をデザインする楽しさを体感します。生データを使って解析することで、統計学の知識を深め応用力を鍛えることができます。実験経済学を通して科学的な視点を獲得すれば、社会から高く評価されます。受講生の卒業後の進路は、民間企業・公務員就職、大学院進学など多方面です。 2015年に出版した共著のRegional Inequality and Industrial Structure in Japan: 1874-2008 (Maruzen Publishing Co., Ltd)では、19世紀末から現在までの日本の長期の地域間格差を分析。1970年以降の分析に、R-JIPデータベースが使われている。 自他の利害が対立するときに、自らコストを負って、他人に信用してもらえるシグナルを発信できる人は、ある意味リスクを負います。リスク判断が利害関係に依存することを実験で発見確認し、新たな理論につなげます。2012年に韓国ソウルで行われたAsia KLEMSの研究会参加者達と、王宮の門の前で記念撮影。左から4人目が私。Asia KLEMSはWorld KLEMSのアジア部門のような位置づけでアジア各国の生産性比較を行う研究プロジェクト。左・右下:実験用ソフトを使って、実験モデルのXY選択をPC上で行う。右上:参加者用PCをネットにつなぎ、サーバでソフトを操作。左:2人(Role1、Role2)がXかYを同時に選択するとき利得(数字)が生じる実験モデル。右:実験結果、縦は選んだ参加ペア数徳井 丞次 教授西村 直子 教授1978年東京大学経済学部卒。1988年東京大学大学院経済学研究科単位修得満期退学。1988年講師として信州大学経済学部講師として採用され、現在の職に至る。2011年より独立行政法人経済産業研究所のファカルティ―フェローを兼務。東京大学経済学部卒業後、ジョンズ・ホプキンス大学(米国)で経済学博士を取得。その後、信州大学経済学部講師で採用され、2004年より教授、現在に至る。その間、ジョンズ・ホプキンス大学、UCアーヴァイン大学、大阪大学等の客員研究員を務める。研究の未来と卒業後の将来像研究の未来と卒業後の将来像主な研究事例主な研究事例

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