経法学部研究報告紹介2017-2018
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9応用経済学科応用経済学科図形の「形」の複雑さを数値化し、身近な問題へ応用する金融取引のリスクを計量する 図形の概形を数学的に調べる位相幾何学とその応用を研究しています。穴が開いていたり、分割されたり、同じものが積み重なっていたりする図形の性質をどう特徴づけるかが大きなテーマです。特に図形の複雑さを数値化して、分類することに興味を持っています。 そのような古典的な不変量として、オイラー標数が知られています。これは図形の頂点の個数から辺の本数を引いてさらに面の個数を足して定義される素朴な値です。正多面体が何種類あるかの分類などに古くから使われてきました。最近の応用として、オイラー標数に関する積分によって、センサーを備えた領域上に散らばる人や物の総数を数え上げる手法が確立されました。この他にも様々な実学的応用も考えています。 数理ファイナンスや金融工学の研究をしています。この分野では、金融派生商品(デリバティブ)の公正価値や、金融市場における取引戦略を数理的な観点から分析します。数学の一分野である確率論、特に確率過程の理論を応用し、金融資産の価格の動きをモデル化し、リスクやリターンなどを計量します。また、モデル・リスクといい、不適切なモデルを使うことによる影響を評価することも研究対象です。例えば、リーマンショックの原因となったサブプライム・ローン関連の金融商品に使われていた評価モデルは、適切ではなかったと言われています。金融取引は、近年ますます複雑になり、価値やリスクを適切に評価することが求められています。 従来の位相幾何学は、目に見えない、描くこともできない複雑で高次な図形を特徴づけるために、抽象的な議論が主体になっていました。近年になって、この位相幾何学が、工学やデータ解析に利用できることに研究者たちが気づき、「応用位相幾何学(Applied Topology)」という新しい分野が急速に発展しています。 上記でも述べたセンサーネットワーク理論はもちろんのこと、現在最も着目されているのは、データ解析への応用かもしれません。膨大な点の位置情報が与えられたとき、その配置を位相幾何学を通しておおよその形状で分類する方法です。このとき重要な道具が「パーシステントホモロジー」と呼ばれる点配置に現れる「穴」の情報を拾い上げたものです。現在までにタンパク質の構造解析やガラスなどのソフトマター構造の特徴付けに貢献してきました。 現在の情報社会で、データ解析は企業にとっても重要であることは言うまでもありません。新たな手法を自ら開発し、それを自在に使いこなせる人材が期待されます。 金融市場はバブルや金融危機を繰り返し、教訓や経験を蓄積しているものの、金融危機は10年程度の周期で訪れています。さらに、各国の市場は連動性を高め、金融危機の規模はますます大きく複雑なものになっています。私の研究は、金融取引のリスクを分析し、適正に評価することですが、この研究が金融市場の安定化の一助となることを期待しています。 学生は、金融市場を定量的・数理的な視点から客観的に分析する力と、金融取引とそのリスクを正しく認識する金融リテラシーを、習得します。また、今日の金融市場は、情報技術や金融技術により資本・リスクの移転が容易になり、地域金融もグローバルな金融市場とつながっています。グローバルな視点を持ちつつ、地域の金融に貢献できるような人材を育成することを目標としています。銀行・証券・保険などが関連する産業ですが、社会現象を数理的な観点から分析する能力は、今日の情報化社会においては、分野を問わず役に立つと思います。 組合せ論的に構成される空間(図形)の不変量の導入(オイラー標数、LSカテゴリー、Topological complexityなど)と、それらの工学、データ解析への応用。特に、センサーネットワークやロボットモーション設計、パーシステントホモロジーを用いた位相的データ解析。左:松本市のバス停留所のデータから得られるパーシステント図右:長野市のバス停留所のデータから得られるパーシステント図左:センサーネットワークグラフP上のN個のターゲットによるカウント関数h【N=5】 右:オイラー積分によりターゲットの総数を与える式田中 康平 助教都築 幸宏 准教授2005年信州大学理学部卒業。高校教員を経て、2013年信州大学総合工学系研究科博士課程修了。同年より信州大学経済学部助教となり現在に至る。専攻は代数的位相幾何学および応用トポロジー。2000年京都大学理学部卒業、2002年東京大学大学院数理科学研究科修了、2015年同大学大学院経済学研究科博士課程修了、2002年より民間企業に勤務、2016年東京大学大学院経済学研究科特任講師を経て、2017年より現職。研究の未来と卒業後の将来像研究の未来と卒業後の将来像主な研究事例 金融派生商品の公正価値の評価およびリスク管理手法を数理的な観点から研究しています。このような研究では、具体的なモデル(確率微分方程式)を仮定することが多いのですが、私はモデルを使わない優複製手法と、それから導出される公正価値が取りうる範囲を研究しています。モデルを使わないことによりモデル・リスクがなく確実性が高くなり、優複製により保守的なリスク管理を行うことができます。オプション価格には、市場参加者の将来の株価に対する予想が反映されている主な研究事例

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