人文学部_学部案内2019
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29From Professorsで, ヨーロッパの言語と活字印刷は相性がよいのです。ところがキリシタン版の日本語には, 平仮名・片仮名・漢字にローマ字と多くの種類の文字があり, しかも漢字の種類は二千字以上, 最終的には三千字以上に達していました。どの文字が必要になるのかを見極めることは, その言語への深い理解がなければできません。日本イエズス会は日本語を学習し, 日本語研究として当時の日本人の及ばない領域に達していました。——日本人ができないことを外国人が行ったのですか?——そうです。だいたい, 日本人が日本語を研究するというのは奇妙な話ではないですか? ふつうは, 何か新しい言語を使えるようになるために語学の勉強をしますね。それなら動機は純粋なのです。けれど, 母国語はもう習得しているものですから, 改めて関心は持ちにくいし, その必要がないです。ですから, それが必要だったのは外国人宣教師で, しかも日本語で布教するという具体的な目的があったからです。もちろん何もないところから日本語を研究したのではなく, ラテン語学というヨーロッパの言語学の伝統を利用して, そこに日本語学を当てはめて分析したのです。——ラテン語学ですか? 難しそうですね。——それは日本人だからで, 当時のヨーロッパの知識人にとってラテン語は必須の知識でしたから, むしろ分かりやすかった筈です。その日本語学習の成果は言語規範(ことばのきまり)の統一としてキリシタン版に反映されました。そのことは, 信頼できる正しい日本語で宗教的内容を表現するという目的にもよく合致しました。とくに活字の設計については, ある語を表記する漢字を統一し, ある意味を表す用語を統一することで, 必要となる活字を必要最小限に絞り込むことができ, 効率的な活字印刷が可能になったのです。キリシタン版が活字で出版されたということは, そうしたフィルタを経由した出力だということですから, そこにある日本語を日本語学の資料として利用する際にも, 活字で印刷されたという事実を無視することはできないのです。——最近はとくにどんな研究をしているのですか?——日本語学というからには, 日本語に関することを研究するのが本来の目的です。ですが, キリシタン版に関心をもつうちに, 活字印刷の解明が先だと考̶白井̶白井̶白井

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