人文学部_学部案内2019
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20From Professors留学してはっきりと見えたことですね。——まあ, そうですね。で, 逆に日本に戻ってくると, 今度は日本の文学と他の国々の文学の関わりも気になってくる。そして比較文学の研究者になった。——今, 先生がとくに関心をもっていることは何ですか?——日本の近代知識人がたくさんフランスに行っていますよね。金子光晴とか永井荷風とか, 藤田嗣治とか。そんな人がフランスでどんな風に暮らしたか, そしてその体験が彼らの作品にどんな影響を与えたか研究しています。もうひとつはエマニュエル・ボーヴという作家。フランス国籍の作家なんですが, ロシアからの移民の子なんですね。フランスで生まれたからフランス人なのですけど, その人の文学って, やっぱり親の文化を背負っているし, もちろん本人のフランスでの辛い経験も影を落とす。ボーヴというのも本名ではないんです。本当はボボヴニコフっていうんです ね。そのロシア風の名前のせいで第一次大戦中にはスパイと間違えられて投獄されたりする。この人が僕はひたすら好きで, この人の小説の翻訳がいまいちばんやりがいのあること, やってて楽しいことです。——ひとつの国のなかにも, いろいろな経験が混じり合っているということでしょうか。少しずれますけど, 同じ国のなかの地域ごとの違いも気になりますよね。同じ国とは思えなかったり…。——そうですね。国というのは国境に囲まれた範囲なのだろうけれど, その国境はたぶん二重にぼかしていけますよね。たとえばフランスとスペインの密接な関係を調べることによって, あるいは国境の内部の一枚岩ではない状態を明らかにすることで, フランス全体を取り囲んでいる国境の確かさというのは薄らいでいく。つまり, その人工性がばれてくる。いまメリメの『カルメン』を授業でとりあげているんですが, あれって誰もが胸ちぎられる男女の悲劇のようでいて, 実はマイノリティどうしの特殊なドラマでもあるんですよね。主人公の男はバスク地方の出身だし, 女はジプシー。あれはスペイン人一般の悲劇を描いたフランス文学ではない。何にしろ調べてみるとね, 国境はほつれていくんですよ。ところで, あなたは何に興味があるの。̶澁谷̶澁谷̶澁谷

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