農学部研究紹介2018-2019
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信州・長野県には古くから伝承されてきた地域資源が数多く存在します。これらの伝統的な地域資源を見直し、新しい組み合わせにすることで、新規な機能性食品を開発します。右図の「発酵キョウバク」は、「ソバ」と「漬け物」という地域資源の新しい組み合わせで、降圧作用を持つ機能性食品を創り出した一例です。最近、ナスにアセチルコリンが大量に含まれ血圧調整作用があることを、世界で初めて発見しました。高血圧は、脳溢血や心臓病など循環器系重大疾病の危険因子です。現在、日本で4730万人、世界で10億人以上の人々が高血圧に悩まされています。機能性食品で高血圧を予防し、循環器系重大疾病の予防に役立てたいと考えています。発酵キョウバクから見つかった、新しい食品機能性成分・コリンエステルは、少ない量で効果を発揮するため、安価で多くの人に利用してもらえる機能性食品を開発することができます。コリンエステルはナスに大量に含まれてることが判り、現在、ナス機能性食品を開発する大型プロジェクトに取り組んでいます。日本だけでなく世界的な高齢化が進行しており、健康長寿社会の実現は、今や世界的な課題です。信州発の新しい機能性食品を開発し、健康長寿社会に貢献するためベンチャー企業を立ち上げました。当研究室では、機能性食品実用化のために必要な、有効成分の同定、分析、動物試験での有効性確認、機能解析、安全性試験など多岐にわたる知識と技術を身に付けることができます。将来は、これらの専門知識と技術を活かせる医薬品や食品企業での研究開発、商品開発などの技術職で活躍してくれることを期待しています。研究室ではベンチャー精神も学んでください。ベンチャー精神を持つ人材は、大手企業で高く評価されます。中村浩蔵准教授日本学術振興会特別研究員、JST科学技術特別研究員を経て2002年より信州大学農学部。伝統的な地域資源をリバイバルして、新しい機能性食品を開発し実用化する研究に取り組んでいます。ฅขଅइ༄ଅ̇Ѕ地域資源を活用した機能性食品の開発新規な降圧成分として特定されたコリンエステル。自律神経活動を制御して、血圧を適正に保つと考えられます。ラクトイルコリンが天然に存在することは我々が世界で初めて明らかにしました。食品分子工学研究室研究から広がる未来卒業後の未来像生命機能科学コース信州・長野県の地域資源であるソバは、実だけでなく茎や葉も古くから食されています。すんき漬は、塩を使わない信州の伝統的な乳酸発酵食品です。ソバスプラウトをすんき漬の製法で加工したソバの漬物が「発酵キョウバク」です。N+OOアセチルコリンN+OOプロピオニルコリンN+OOOHラクトイルコリンアセチルコリンは、哺乳類の神経伝達物質です。多くの発酵食品と一部の植物に含まれていますが、なぜかナスに大量に含まれています。ナスのアセチルコリンはリラックス作用で高すぎる血圧を下げると考えています。山田研究室では、マツタケをはじめとする菌根性きのこ類の生態解明と、その応用である栽培化に関する研究に取り組んでいます。菌根性きのこ類は培養が難しく、殆どの種では未だ人工栽培化に成功していません。また、生態が不明であったり、未発見の種も多いと考えられています。山田研究室では、広く国内・海外を対象に山野を駆け回り、野生きのこ類を収集しています。そして、分類や生態解明といった基礎的研究をベースに有望なきのこ類を見出し、植物との共培養を通じて子実体を形成させる人工栽培化技術を開発することを目指しています。マツタケやトリュフを自在に操り、それらの商業的な人工栽培が可能になると、人々のきのこに対する認識や食文化は大きく変革するはずです。研究室では、これを単なる純粋培養系で達成させるのではなく、自然界の摂理に沿った樹木との共生体として利用していく道筋をつけたいと考え、調査・実験を進めています。また、きのこ類は自然界における物質循環で大きな役割を果たすことから、地球環境に関わるCO2問題、環境放射能問題、資源循環型社会の創出などにも関わりを見出す事が出来ます。きのこという小さな研究対象を通じて、現代と未来の社会を開拓していける人材の育成を理想に掲げています。微生物の探索、培養、遺伝子解析といった実験操作技術が身に付きます。また、森林や山野を安全に調査できる幅広い技術についても学ぶ事ができます。さらに、長野県の代表的な地場産業であるきのこ栽培産業に関わる最新情報を踏まえて、関連産業へ就職する際に役立てる事ができます。山田明義准教授学位取得後、林業研究機関でのポスドクを経て、1999年11月より信州大学農学部。難培養性きのこ類の培養系確立、菌根の構造と機能の関係解明、きのこ類の進化と生態系における役割の解明、人類のきのこ食文化に関心がある。野外調査で収集したマツタケの子実体マツタケ培養株とアカマツ実生との共培養きのこと植物の共生現象:菌根性きのこ類の基礎科学と人工栽培応用真菌学研究室研究から広がる未来卒業後の未来像生命機能科学コース7

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