H29_繊維学部_研究紹介
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教員紹介研究から広がる未来卒業後の未来像応用生物科学科生体組織から細胞を除去した脱細胞化組織は、医療機器として主に欧米で臨床使用され、患者さん自身の組織と馴染みやすいなどの性質が認められ注目されています。脱細胞化処理により、ブタなどの組織をヒトへ移植することが可能になり、異種組織、臓器の医療応用が期待されています。根岸研究室は、脱細胞化組織の特性を解析し、その要因を明らかにし、医療用材料へ応用することを目的としています。また、金属加工・食品加工技術で使用されている真空加圧含浸法は、溶液などを材料へ効率よく導入することを可能にする技術です。この技術を医療用材料に応用し、新たな性質を有する医療用材料の開発を目指しています。研究を通して自ら考え行動すること、チームとして作業することを習得してほしいと考えています。研究室での経験を活かして、様々な分野で活躍してくれることを期待しています。根岸淳助教東京医科歯科大学で博士号(学術)を取得、札幌医科大学で日本学術振興会特別研究員(PD)、株式会社ADEKA研究開発本部研究員を経て現職。生体由来材料の開発、解析を目的としている。(左)ラット頸動脈移植3日目の未処理ブタ橈骨動脈。(右)ラット頸動脈移植2週間目の脱細胞化ブタ橈骨動脈。脱細胞処理により、異種移植の拒絶反応を回避し、血管として機能している(A)凍結乾燥した脱細胞化組織を溶液に浸漬すると組織内の空気が抜けにくいため、不均一な溶液浸透になる。(B)真空加圧含浸法により、組織内の空気を除去した状態で溶液導入が可能になる。ローダミン(色素)標識したポリエチレングリコールが組織内部まで導入できていることが示されている(写真)。サイズW3cm×H2.65cm配置位置横0.5cm、縦7.42cm脱細胞化組織などの生物由来材料は、複雑な生体組織構造を再現可能であり、患者自身の細胞による組織の再構築などが期待できる材料と考えられています。幹細胞医療などと併用することで、複雑な生体組織、臓器を生体外で作り出すことが可能になるかもしれません。また、医療材料開発に異分野の技術を転用することで、今までにない性質を持つ医療機器開発が可能になると考えています。生物由来材料の特性を解明し、新たな医療機器を開発する未処理ブタ橈骨動脈:閉塞脱細胞化ブタ橈骨動脈:開存教員紹介再生医療はこれまで治療が不可能であった傷害・疾患を克服する可能性を秘めており、幹細胞はその主役を担います。iPS細胞等の多能性幹細胞や、各器官に存在する組織幹細胞を用いた再生医療研究が世界中で展開されています。高島研究室は平成26年度に発足した新しい研究室です。当研究室では、精巣の組織幹細胞『精子幹細胞』に着目し研究を進めます。この細胞は精子形成に特化しているにもかかわらず、稀にiPS細胞のような多能性幹細胞に自発的に変化します。この細胞のユニークな性質を理解し、自在に操る手法を開発することで、再生医療へ貢献する事が当研究室の目的です。精子幹細胞は精子の産生に特化した組織幹細胞でありながら、多能性幹細胞のポテンシャルも併せ持つ不思議な細胞です。従って、男性不妊の治療だけでなく、多能性幹細胞への若返りを通じてiPS細胞と同様に種々の疾患への再生医療にも応用が期待されます。また、精子幹細胞技術を畜産分野へ展開することで、優良な肉質を有するウシ・ブタを効率よく生産する技術に繋がります。このように、精子幹細胞は幅広い分野に貢献する事ができる『万能』細胞だといえます。高島誠司助教東京工業大学大学院で博士号(工学)を取得後、東京大学医科学研究所研究員、京都大学医学部助教を経て現職。学生時代より一貫して再生医療研究に従事。幹細胞の性質の理解と制御を目的としている。精子幹細胞の能力。(左)試験管内で増殖するマウス精子幹細胞。(中)緑色蛍光タンパクを発現する精子幹細胞を移植した精巣。緑色蛍光を発する精子ができている。(右)精子幹細胞由来の精子でできた仔マウス。子供も緑色蛍光を発する(矢印)。精子幹細胞の潜在的多能性。この能力は普段抑制されているが、その抑制機序が破綻すると多能性精子幹細胞に変化する。(左)精子幹細胞から変化した多能性精子幹細胞。iPS細胞と同様の多能性を持つ。(右)多能性精子幹細胞からなる『キメラマウス』。緑色蛍光を発する部分は多能性精子幹細胞に由来する。研究から広がる未来卒業後の未来像再生医療関連産業は、2020年には市場規模が1兆円(経産省試算)を超えるといわれています。当研究室での幹細胞研究の経験を生かし、大学・研究機関に限らずこうした成長産業でも活躍してほしいと思います。応用生物科学科幹細胞の性質を理解し、自在に操る58

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