NOW108号
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08「1本鎖DNAナノ粒子」を独自に開発。この物性や動態を調べ、電子回路や医療診断などに使うバイオセンサーなどへの応用を目指した研究を進めています。講義ではその仕組みから応用まで、研究内容がわかりやすく解説されました。その一端をご紹介します。DNAはA(アデニン)、T(チミン)、G(グアニン)、C(シトシン)の4種の塩基があり、A-T、G-Cの組み合わせで結合する性質を持ちます。これを「相補的水素結合」といいます。1本鎖DNAは生理的条件で負に帯電するリン酸基を持っているため、1本鎖DNAナノ粒子は水中で分散します。しかし、前田主任研究員らは、そこに相補関係にあるDNA鎖を添加し1本鎖を2本鎖DNAナノ粒子にすることで、たちまち粒子同士が凝集し水が白く濁ることを突き止めました。さらに、2本鎖DNA末端の一塩基が相補関係でないミスマッチ状態であるだけで凝集しなくなり、分散状態のままであることもわかりました。この原理を使えば、分子センサーやガンの初期診断、テーラーメイド医療診断などにも応用できる可能性があります。質疑応答の時間には、各キャンパスから質問が飛び交い、学生たちにも刺激となった様子が伺えました。講義の最後、前田主任研究員は「分野横断的な基礎研究を進める環境を提供したいと考えています。この講義がその1つの窓口となって、信州大学との連携をより強めていけたら」と話し、今後に期待を寄せていました。理化学研究所は国内40大学、海外61大学と連携大学院協定を結び、学生の受入を行っています。また、大学院生リサーチ・アソシエイト制度等により働きながら学ぶ大学院生も数多くいます。講義のあと、早速信州大学の学生から、理化学研究所で学ぶためにはどうしたらよいかという問い合わせが入りました。この講義をきっかけにして、さまざまな展開を模索していくことが、信州大学ならびに理化学研究所の今後の方針です。今回は、理化学研究所が誇る研究者であるというだけでなく、長野県にゆかりのある方が複数登壇されました。例えば、第3回講師の入來篤史氏、第4回講師の坂本健作氏のお二人はともに長野県出身。第6回講師の野田茂穂氏は現在長野市に在住で、第7回講師の鈴木隆氏は以前信州大学理事を務めていた方です。日本の頭脳の集積地でもある理化学研究所は、多彩な人材と研究環境を有しており、研究機関同士の連携は日本の科学研究にとって非常に有意義なことです。今回、第一線で活躍する研究者と共に、信州大学と理化学研究所との連携強化のための確かな一歩が踏み出されたといえるでしょう。研究者のつながりも活かし信大×理研の連携を強化全8回の講義内容は下記の通りです。自然科学分野の第一線で活躍する理化学研究所の研究者の方々にお越しいただき、専門的な研究内容から国の科学技術政策、世界の研究動向、科学者の自発的・自律的な研究の意義に至るまで、多岐にわたる講義をいただきました。第1回 「理研への招待」講師:前田 瑞夫(前田バイオ工学研究室 主任研究員)10月 4日(水)主会場:松本キャンパス 第2回「バイオものづくり」講師:伊藤 嘉浩 (伊藤ナノ医工学研究室 主任研究員)講師:沼田 圭司(環境資源科学研究センター チームリーダー)10月11日(水)主会場:上田キャンパス 第3回「脳神経科学最前線」講師:入來 篤史(脳科学総合研究センター シニアチームリーダー)10月18日(水)主会場:長野(工学) キャンパス 第4回「未来の医薬品開発」講師:坂本 健作(ライフサイエンス技術基盤研究センターグループディレクター)10月25日(水)主会場:伊那キャンパス 第5回「医工連携研究 (バイオデバイス)」講師:田中 陽(生命システム研究センター ユニットリーダー)講師:伊藤嘉浩(伊藤ナノ医工学研究室 主任研究員)11月 1日(水)主会場:上田キャンパス 第6回「バイオエンジニアリング・ ものづくり新産業の創成」講師:野田 茂穂(情報基盤センター ユニットリーダー)講師:大森 整(大森素形材工学研究室 主任研究員)11月 8日(水)主会場:長野(工学)キャンパス 第7回「科学技術政策動向」講師:鈴木 隆(科学技術ハブ推進室 室長)11月15日(水)主会場:松本キャンパス 第8回「最先端計算科学による 生体分子の解析」講師:杉田 有治(杉田理論分子科学研究室 主任研究員)11月22日(水)主会場:伊那キャンパス2017年度大学院講義「科学技術政策特論」理化学研究所に見る最先端研究の動向 講義・講師一覧1983年、東京大学大学院工学系研究科合成化学専攻博士課程修了(工学博士)。2001年、理化学研究所主任研究員。2016年に設立した信州大学と理化学研究所との連携研究室の連携教授も兼任。理化学研究所前田バイオ工学研究室前田 瑞夫 主任研究員DNA鎖の特性を活かし、分子センサーやガンの初期診断などへの応用可能性を紹介。画像は、2本鎖DNAの凝集(水の濁り)により、水銀イオンを目視で検出する実験の結果(当日の講義資料より)

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