NOW108号
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12がら、天然物の中にある、人に有用な機能性成分を探究していく研究分野ですが、中でも藤田教授は成分分析を専門としてきました。その経験を活かして、高圧処理装置の用途拡大のための研究が産学連携でスタートしたのでした。「最初に着手した小麦で興味ある成果が得られたので、次に、より手軽なお米で実験をしてみました。すると、処理後の白米は処理前の白米に比べてポリフェノール量が約3倍になるという従来にない研究結果を出すことができました」と藤田教授は振り返ります。ポリフェノール類だけでなく、ビタミン類も移行、さらに、圧力をかけることで菌の増殖を抑えられるというメリットがあることから、水を浸透させても、乾燥して精米できることがわかりました。「信州大学に来る前は、どちらかというとラボに入りきりの研究が主でした。しかし信州に来て周囲が田畑に囲まれた環境の中では、以前にも増して休耕田が目立ってきたことを実感します。全国的にもお米の消費量は減っています。日本の主食であるお米に関する課題は日本人の課題。この研究がお米の消費向上に寄与できたら。農学部らしい研究になっていると感じています」と藤田教授は穏やかな笑顔で研究への思いを語ってくれました。最近では信州大学医学部の能勢 博学術研究院(医学系)教授が推奨する「インターバル速歩(※)」との共同研究も進んでいます。インターバル速歩に継続して取り組んでいる人に、高圧加工米を4か月間食べてもらい、その効果を検証する実験です。結果、なんと通常の白米食に比べて空腹時の血糖値の上昇が抑えられていることが判明(特許出願中)。高圧加工米に血糖調節機能があることが分かりました。糖質オフダイエットなどが流行する昨今、糖質の代表格としてやり玉に挙がりがちな白米ですが、この研究成果は新しいお米の価値を生み出してくれそうです。医学系研究科との共同研究のほか、旭松食品(株)、(株)吉野家ホールディングスなど食品業界の大手企業も研究に参画、市場調査や商品開発など実用化に向けた協議が進んでいます。「米の品質や食味などの評価も農学部の先生と共同で進めています。玄米に比べ加工しやすいので機能性を高めた2次加工の可能性も広がっていくと思います」と藤田教授。この技術を応用して、野菜や果物など別の食材でも取り組んでいけたらと、さらなる可能性に期待を寄せていました。インターバル速歩とのコラボ研究も進行中!「お米」という当たり前の存在に新しい可能性を 米」そのまま保持したジェクト)」採択。の開発」容量を50リットルにスケールアップして、実用化に向けた検証を進めています生産量を上げるため新しく導入した高圧処理装置に玄米を入れた様子(※「さっさか歩き」と「ゆっくり歩き」を数分間ずつ交互に繰り返すウォーキング法で、信州大学の能勢博教授が考案したトレーニング法)高圧処理後の白米と普通の白米のポリフェノール量を比べたグラフ。55℃で100MPaの圧力をかけた「高圧加工米」は、ヌカの栄養価が胚乳に移行し、未処理の白米の約3倍のポリフェノール量に日本テルペン化学(株)研究員、大阪府立大学農学部助手、大阪府立大学大学院農学生命科学研究科助教授を経て、平成18年より現職。平成28年より、信州大学学術研究院農学系長、農学部長。藤田 智之 学術研究院(農学系)教授
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