NOW108号
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11私たちが普段食べている白米は、稲の実である籾(モミ)から籾殻(モミガラ)を取り除いた玄米から、さらにその表面部分をヌカとして削り取った「胚乳」と呼ばれる部分です。しかし、精米の際に取り除かれてしまうヌカには、ビタミンやポリフェノールなどの栄養素が豊富に含まれています。最近では、健康志向の人も増え、玄米食も一般的になってきてはいますが、食べにくさや消化性の悪さもありその需要は一部に留まっているのが現状です。「玄米の栄養価を白米に付与できたら―」。そんな思いを現実にするのが、藤田智之教授が開発した「高圧加工米」です。「高圧加工米」を作る手順は次の通り。まず、高圧処理装置の中に玄米と水を入れ、変質しない温度まで加温して100MPa(水深1万メートルの水圧に相当する圧力)の圧力をかけます。その後、取り出して冷まし、元の玄米の重量まで乾燥させます。それをただ精米するだけ。とてもシンプルな方法です。この「高圧加工米」の最大の特徴は、精米しても、ポリフェノール類やビタミン類など玄米が持つ栄養価を5~9割も保持している点にあります。白米なので玄米よりも食べやすく、また未処理の白米と比べても食味の違いが歴然。高圧力をかけることでヌカの栄養素が胚乳に移るため、「試食した人の多くが、未処理の白米よりもお米特有の香ばしい香りが増し、味も濃く感じられると評価してくれています」と藤田教授も自信をにじませます。「高圧加工米」を作るのに用いるのは、蒸気ではなく水によって圧力をかける「静水圧」の原理を応用した装置です。もともと、この技術は微生物の殺菌などに用いられてきたもの。例えば、「高圧加工米」を作るのと同じ、100MPaの中高圧力はカキの殻むきなど、さらに高い600MPaの高圧力はアボカドペーストやジュースなどの食材の殺菌もできる技術で、その安全性の高さも特徴のひとつです。「ただ、新しい装置のため『他にも用途は無いか』とこの装置のメーカーから10年程前に相談を受けました。それがきっかけで、最初は小麦の研究からスタート、成果が得られたため8年程前から高圧加工米の研究を始めました」と藤田教授。高圧処理装置を作ったのは(株)東洋高圧という広島県のメーカー。藤田教授に話が来た当時、高圧処理装置の用途拡大を目指し試行錯誤を重ねていた所でした。現在「まるごとエキス」と名付けられた装置のプロトタイプを見た藤田教授は、「高圧下では水の浸透性が高まり成分が浸透しやすくなる性質を応用することで、穀類のヌカにある栄養素が胚乳に移せるのではないか」と考えたといいます。もともと、藤田教授は「農芸化学」と呼ばれる分野が専門です。化学の視点で生命の機能を探りな高圧力がお米を変える!?「高圧加工米」のスゴさ高圧処理装置メーカーとの産学連携「高圧加工玄米の機能性成分を農林水産省「革新的技術開発・緊急展開事業(先導プロ「米の市場開拓に向けた機能性を賦与した高圧加工米「玄米」の栄養価は知りつつも、パサパサとした食感や食べにくさから苦手としている人も少なくありません。信州大学農学部の藤田智之学術研究院(農学系)教授が開発したのは、玄米に高圧力をかけることで、玄米の栄養価を白米に移すことができるという夢のような技術です。お米の新しい可能性を広げる研究として、平成27年度の農林水産省「革新的技術開発・緊急展開事業(先導プロジェクト)」に採択され、現在実用化に向けた研究が進められています。(文・柳澤 愛由)右が処理後の「高圧加工米」。未処理の白米(左)に比べ、少し色が濃いのが特徴炊きあがり。右が「高圧加工米」高圧処理装置「まるごとエキス」。イワシのような魚でも高圧処理することでまるごと液状化=エキスとすることができるというコンセプト。現在は商品化され、特殊な商品開発ができると食品業界で話題となり業務用機械として全国へ流通しています

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