NOW108号
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09里芋のあまり使われない部位「親芋」に着目!高齢化社会を迎えた日本では、筋力の低下した高齢者の食事を補助するために、とろみをつけたり、ペーストにしたりした食品=「嚥下食」の需要が高まっています。今回ご紹介する天野教授の特許は、「里芋」と「酵素処理」という技術を組み合わせることで、栄養価の高いとろみ剤や嚥下食に最適な食材を簡単に作ることのできる技術です。まず、この特許技術を開発することになった社会的背景についてご説明します。高齢者の中には、嚥下(飲み込む力)機能の低下から、食べ物がうまく飲み込めず、食事を摂ることが困難な人が多くいます。嚥下機能の低下は、誤嚥など深刻な事態に発展することも少なくありません。これまでにとろみをつける増粘剤などの添加物は多数開発されてきましたが、現在あるとろみ剤の中には、軟便になったり、お腹の膨満感が残ったりとまだまだ難点も多く、より機能性、栄養価に長けたとろみ剤・嚥下食の開発が求められてきました。嚥下食の進化は、高齢者の切なる願いでもあるのです。高齢者向け嚥下食の需要と課題また、加速する高齢化と共に、嚥下食の市場は急速に拡大しています。(グラフ①)は、咀嚼・嚥下食品の市場規模の推移と今後の予測を示すものです。2020年の予測額は、2012年の約2.4倍。高齢者に受け入れられやすい新製品の開発は、これまで以上に求められ、確実な需要も見込まれているのです。高まる需要を背景に天野教授が着目したのが、この特許技術の1つ目のキーワードである「里芋」でした。しかも、使うのは硬くて使われないことの多い「親芋」の部位(写真)。一般的に流通する里芋の多くは、その周囲にできた「子芋」と呼ばれる部分高齢者食材に最適!酵素処理の里芋ペー特許特集②「マンナン類含有食材のペースト化方法及びマンナン類含有食材のペースト化剤」信大特許信州TLO映像制作コラボ信大動画チャンネルで配信中!・ 信州大学のホームページから!Vol.2Patent of Shinshu University加速する高齢化社会の中、嚥下食の進化は高齢者の切なる願いグラフ①掘り出したばかりの里芋。茎につながっている中心の大きい芋が「親芋」信州大学の研究シーズを技術移転する(株)信州TLOは、特許の試作品化と特許技術の「見える化」を目的とした動画制作に取り組んでいます※1)。前号に引き続き、信大NOWでもご紹介する第2弾は、信州大学工学部の天野良彦学術研究院(工学系)教授が開発した、「酵素処理による里芋のペースト化技術」です。「工学部発」のユニークな食品加工アプローチによって実現した特許で、高齢者向け嚥下食、とろみ剤など、さまざまな応用が期待できそうです。(文・柳澤 愛由)030,00025,00025,10010,50020,00015,00010,0005,000単位:百万円201220132014201520162017201820192020需要は約2.4倍に!2012年を基準に※2016年からは予測値注1) 咀嚼・嚥下困難者用食品は、キザミ食、ミキサー食、ソフト食、ムース食などの食品で在宅向け及び病院や介護施設等の施設向けを含む出典資料:(株)富士経済「高齢者向け食品市場の将来展望2015」を基に農林水産省で作成したデータの一部をグラフに加工嚥下・咀嚼困難者用食品の販売額(民間調査会社の推定)加速度的に広がる嚥下食市場えん げえん げ※1)平成29年度中小企業知的財産活動支援事業採択えん げそ しゃく親芋
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