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OPEN!(※1:信州大学は全学部の1年生が1年間松本キャンパスに通う)けたい!本と出会いの古本屋12ってくれます。そんな本を通じた体験を思い出して、交流の場としての古本屋をオープンしたいと思うようになりました」。同時に、さまざまな体験をしてきたからこそ、「カツカツ生きていた高校生だった頃の自分に『もっと周り見なよ』って、今更ながら言いたくなって。今、年上の人たちと交流しているとすごく勉強になることが多いから、『私ができることは何だろう』って考えたとき、年下の高校生たちに、いろいろな考え方や価値観に出会ったり、自分自身でちゃんと物事を考えるきっかけを作ってあげることじゃないかなと思ったんです」。そしてたどりついたのが「高校生に届ける、本と出会いの古本屋」というコンセプトだったそうです。「やってみよう」と思い立ってからは、すぐに実行に移していった増川さん。同じ商店街でミツロウキャンドル店を営む方を通じて、空き物件も見つけ、商店街の方々の協力も得ながら準備を進めていきました。「本棚は大学の友達が作ってくれ、黒板は商店街の金物店さんが取り付けてくれました。伊那市で暮らす地域おこし協力隊の方、商店街の皆さんも内外装に協力もいただき、少しずつ形になっていきました」開店資金集めをクラウドファンディングにしようというアイデアも、そうした人と人とのつながりの中から生まれたものだったそうです。募集した金額は当初50万円でしたが、約1か月間の募集期間で集まった金額はなんと80万円以上。目標を大きく上回る結果でした。クラウドファンディングを行うには、自らの思いや考えを伝える文章をWeb上で公開する必要があります。「自分でも納得のいく文章が書けたから、これで失敗したら、今やるべき時じゃないのだろう」と思っていたそうですが、結果は大成功。「全く知らない県外や地元北海道の方からの入金もあって、本当うれしかったです。大事に使わなきゃと思いました」と振り返ります。オープンから約半年。今では常共感いただいた地域の人と協力に感謝!連となった高校生もいるそうです。しかし、就職活動の時期が近づきつつある増川さんに今後のことを聞くと、「伊那の街が大好きです。でも今は就職して、一度ここを離れてみることも考えています。カリカリブックスは、後輩でやってみたいと思う人がいてくれたらいいなと思っていますが、決してお金が稼げるわけではないので強制はしたくないです」と話します。ただ、今はオープンから数か月が過ぎたばかり。まだまだやりたいことは多いといいます。例えば、「題名が見えないようブックカバーを付けた本に、寄付してくれた人の手書きコメントを付けて販売してみようと思っています。ただ古本が置かれている無造作な本棚じゃなくて、何でこの本が並んでいるのか、意味が伝わるような本棚にしたい。私があまりピンとこない本でも、その本を持っていた人の一言があれば、その人の言葉で高校生に伝わっていくものがあると思うから」。かつて、増川さん自身、北海道の地元の景色を「つまらない」と思っていたそうです。「もし伊那の高校生が同じように考えていたら、それを“面白い”に変えるきっかけもここで作ってあげたい」といいます。小さな古本屋から始まった増川さんの行動と発信は、「仮」というユニークなコンセプトのもと、ますます広がっていきそうです。古物商許可も取得しており、置いてある古本は知り合いを通じ増川さん自身で仕入れるほか、寄付も受け付けています。ただし、寄付もいらなくなった本ではなく「高校生に届けたい本限定」というこだわりでお願いしています。写真に一緒に写るのは、同じ農学部生、副店長の根石ひかりさん。ミントグリーンに塗られた扉を開けると、小説やエッセイを中心とした約250冊の古本と、ここを訪れた人たちによって描かれた絵やコメントでいっぱいになった賑やかな黒板が出迎えます。
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