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04意外に知られていないのですが、長野県はワイン醸造用のブドウ栽培適地。ワイン用ブドウの生産量は全国1位(※農林水産省統計)を誇ります。同調査によるとワインの出荷量は全国6位なのですが、ワイナリーの数では全国2位。近年、その立地を活かした個人経営のワイナリーも増えており、県を挙げて「信州ワイン」のブランド化が進められています。その一環で、長野県では4つの地域からなる「信州ワインバレー構想」を策定。そのひとつに、「千曲川ワインバレー特区(図2)」があります。社会基盤研究センターの目標のひとつとしては、この千曲川ワインバレーの中核となるワイナリーと連携し、ワイン生産に関するデータの解析やマーケティング調査などを通じ、「信州ワイン」のさらなる付加価値の創出と販路拡大を目指します。さらに特色のひとつに、平成28年8月に信州大学経法学部が東御市に新設した「千曲川ワインバレー分析センター」とも連携しており、圃場の土壌分析やブドウの糖度、熟度などの成分データの解析を通じてワイン生産に関わる科学的エビデンスを蓄積しています。同時に、教育(経法学部)+研究(社会基盤研究センター)という役割分担で、地域課題と向き合える専門性を持った人材育成にも取り組んでいきます。また、同時に総務省の「IoTサービス創出支援事業に係る委託先候補」に、長野県等とともに申請した平成29年2月「IoTを活用した地域ブランド創出スキームの構築~千曲川ワインバレー特区におけるワインの地理的表示取得に向けて~」が採択されました。人工知能(AI)や環境モニタリングなど、近年、IoTから生み出される新しいサービスやビジネスが急成長しています。しかし、農業分野でのIoT活用は、まだまだ発展途上。各種データ利活用のルール整備も未成熟です。このプロジェクトでは、千曲川ワインバレーをフィールドに、IoTを活用し、ワイナリーや生産者から得た生産過程データと、圃場の気象データとの相関分析などを行うことで、ブドウの品種、圃場ごとの特徴を導き出し、やがては、科学的データに基づき「適切な防除や収穫タイミングの予測サービス」の提供、「ワインの地理的表示制度における地域特性判断基準の明確化」など、地域ブランド創出のための新しいスキームを構築します。また、副センター長を務める経法学部の金本圭一郎学術研究院(社会科学系)講師は、平成29年1月に、世界的に話題となった「経済が及ぼす生物多様性、絶滅危惧種への影響を世界地図で視覚化」(図3)に用いたサプライチェーン研究を活用して、次世代的な付加価値、新たな地域ブランドの創出を図っていきます。社会基盤研究センターは、こうした世界規模のビッグデータを取扱う研究者の視点を地域に向け、数理的知見を通した地域課題の解決を図っていく場であることも大きな特徴のひとつです。さらには心理学や感性工学的手法も用いることにより、データ分析結果をいかに公表すれば消費行動に結び付くのか、といった社会実験的な検証も想定されています。まさに、社会科学と自然科学の融合的研究といえます。国立大学が、地域を中心とするL型、グローバルに展開するG型に分け評価される動きがある中で、社会基盤研究センターが、グローバルな研究を地域に還元し、また地域の研究を世界に発信することを目指したいと考えている一方、東京大学先端科学技術研究センターも先端研究を地域に還元することに高い関心を持っており、両者の思惑が一致した形でパートナーシップを組むことになりました。特に東京大学先端科学技術研究センターの玉井克哉教授には、その研究・教育の中核となるべく、経法学部総合法律学科と人事交流(クロスアポイントメント制度)を始め、自らのブランド研究の中核を担っているほか、大町市の「水」ブランド研究について、東京大学先端科学技術研究センターの水研究の専門家である小熊准教授の参画をコーディネートするなど、東京大学と信州大学の架け橋となっていただいています。まず千曲川ワインバレーで「信州ワイン」ブランディング東京大学先端科学技術研究センターを強力なパートナーとしてIoTを活用した地域ブランド創出の新スキーム構築千曲川ワインバレーで栽培されるワイン用ブドウ(写真提供:東御市産業経済部農林課)千曲川ワインバレーで生産されたワイン(写真提供:(株)ヴィラデストワイナリー)(※図2 長野県内のワインバレー特区 「千曲川ワインバレー特区連絡協議会」は千曲川流域一帯の8市町村からなり、県内でも先駆けてワインバレー構想が打ち出された地域。現在、10社のワイナリーがある)(※図3 世界の消費の裏側でおこる絶滅危惧種への影響を、世界経済モデルと絶滅危惧種のデータ(レッドリスト)というビッグデータを組み合わせて、マップ上で可視化するという研究手法)千曲川ワインバレー桔梗ヶ原ワインバレー天竜川ワインバレー日本アルプスワインバレー
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