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小林准教授が行うのは、「農業IoT(※1)」と「アグリガジェット(※2)」の開発研究です。「IoTはものごとの客観化を可能にします。感覚的だったものが数字で眺められるようになることで、他者との共通理解の基盤も生まれます」と小林准教授。農業は農家の経験則的技量によって左右されてきた産業だといえます。しかし、そうした勘や経験に基づく管理ではなく、圃場内の土壌や生育等のばらつきに対し、きめ細かな科学的観察と対処のサイクルの中で作業を行う「精密農業」という考え方が、2000年代初頭から提唱されてきました。農家が農業に関する科学的理解を深めることで、生産性・収益性の向上を目指した考え方ですが、現在、この「精密農業」の考え方に密接に関わる形で、IoTや機械によるデータの定量的収集・解析による生産安定化、省力化を実現する「ICT農業(スマート農業)」が、注目されています。小林准教授が主な研究対象とするのは「観察」の部分です。例えば、ブドウ農家と協力し、ブドウ農園にセンサと制御基板を取り付けたカメラを設置し、ブドウの実の経過をカメラで撮影した連続した高精細画像で観察するという研究。高精細画像と気象等の観測データをかけあわせ、過去のデータと比較、収穫や施肥、防除の適期を科学的データに基づき見極めます。こうすることで、これまでの経験、勘では得られなかった農家の「気付き」を引き出し、さらなる生産の安定化や高品質化、高効率化につなげていくことを目標としています。また、こうした仕組みを維持するためのは物理的な有用性が求められ、「機能消費」といわれる生理的欲求を満たす行為であることが多かったといいます。しかし、時代が変わるにつれ、ファッションや流行などの表層の装飾性(イメージ)が重視される消費行動が中心となってきました。さらに近年では、「社会貢献」「環境・資源への配慮」「自然志向」といった消費による社会的影響を重視する「社会的消費」といわれる行動が、大きな影響力を持ち始めているのではないかといわれています。消費を通して望ましい社会を構築するための「社会選択」のひとつとして、消費を位置付ける行動です。その背景には、「モノの豊かさ」から「ココロの豊かさ」を重視する価値意識の変化、さらに社会問題の深刻さや科学技術の進歩があるといいます。「今後、『社会的消費』はある程度普及していくのではないか」と水原准教授。ただし、多様化が進み変動の激しい現代社会では、年齢や年代、所得等の違いで、消費が二極化していく傾向もあり、より長い期間での調査研究が必要不可欠であるといいます。「CAFIでは、短期的ではなく、長期的スパンの中で消費者の意識の動向を見ながら、何かしら食農産業の中で、消費と生産がミスマッチを起こさないようなモデルの構築につなげていけたらと考えています」と、水原准教授は期待を寄せていました。「アグリガジェット」が拓く農業の未来生産技術研究部門(ロボティクス研究グループ)小林一樹 学術研究院(工学系)准教授※1)様々なモノがインターネットに接続されること※2)農業:Agricultureと小道具:Gadgetを合せた小林准教授による造語で、農業者向けのアプリや機械を意味する2002年茨城大学大学院修了。2006年国立総合研究大学院大学修了。2004年より国立情報学研究所 リサーチアシスタント。2006年関西学院大学理工学研究科ヒューマンメディア研究センター博士研究員。2008年信州大学大学院工学系研究科 情報工学専攻助教。小林 一樹(こばやし かずき)2005年立教大学大学院社会学研究科社会学専攻修了。2005-2007年立教大学社会学部助手。2007-2011年立教大学社会学部助教。2011年信州大学学術研究院(人文科学系)准教授水原 俊博(みずはら としひろ)消費者の意識は「モノの豊かさ」から「ココロの豊かさ」に変化している。(画像はイメージ)「アグリガジェット(フィールドモニタリングデバイス)」の開発も研究対象のひとつ。上記の観察カメラのようなツールから、3Dプリンタなど柔軟なものづくりに対応できる工作機器を活用したツールの開発まで、「農業」と「ものづくり」を融合させることで、新しいイノベーションを生み出していきたいとしています。小林准教授が研究するモニタリングシステム10

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