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天野教授が研究を進めているのは、物質の反応を利用した「新しい食品加工技術」の研究です。代表的なものは「水熱処理」と「酵素」。水熱処理とは、高温・高圧の水が触媒となって進む化学反応(水熱反応)を利用し、水の温度と圧力を調整して有機物を分解、有用な物質を取り出す技術のことで、薬品などを使わず安全に処理できることが最大の特長です。天野教授は、甜菜糖の原料であるビート(甜菜)の搾りかす(ビートパルプ)に着目。ビートパルプはこれまで家畜の飼料や肥料として使われる以外、食用ではほぼ利用されてきませんでしたが、天野教授はこのビートパルプに水熱処理を施すことで、ペクチン由来のオリゴ糖を生成することに成功しました。しかも、このオリゴ糖はフェルラ酸というアルツハイマー病などに効果を発揮するとされる成分が結合しているといいます。今後、有用性の研究をさらに進めることで、新たな機能性を持ったオリゴ糖が非可食部分から製造できるようになる可能性があるといいます。酵素を用いた研究では、長野県を代表する作物であるリンゴを対象にしています。例えば、生産量が最も多い品種の「ふじ」は、その糖度の高さから人気がありますが、ジュース等に加工した場合は糖度が高いゆえに、「甘すぎる」という評価がされることがあります。そのため、あえて酸を添加して味を調整することも多いそうです。しかし「酵素処理」を施すことで、糖度と共に酸度も上昇させることができ、添加物を水原准教授が専門とするのは、「消費社会学」。社会的条件が消費に与える要素とは何か、また消費が社会に与える影響は何かを研究する分野です。「単に市場購入を伴う消費だけではなく、社会的条件によって消費は特徴付けられるという視点を持つことが消費社会学の特徴です」(水原准教授)近年の消費行動は、広範な分野において、多様化、高水準化が進み、従来考えられてきたものから大きく変化しているといわれています。かつて、消費行動信州大学次代クラスター研究センター特集④食農産業イノベーション研究センター キックオフシンポジウム研究事例紹介物質反応を利用し新しい食品加工技術を作り出す「消費社会学」が照らす食・農産業食農産業イノベーション研究センターセンター長高付加価値化研究部門(高度食品加工プロセス研究グループ)天野良彦 学術研究院(工学系)教授高付加価値化研究部門(食の消費社会学研究グループ)水原俊博 学術研究院(人文科学系)准教授信州大学大学院工学系研究科修了、博士(工学)1995年より信州大学工学部助手・助教授を経て2005年に教授。2014年から評議員。専門:生物工学(特に酵素化学)生体触媒の基礎と応用について研究。天野 良彦(あまの よしひこ)入れることなく、「すっきりとした味わい」に変化させることができるといいます。「植物の細胞壁は多種多様で酵素反応も様々です。植物の特性に応じてどのような酵素を使えばいいのかを精査すれば、有用な成分だけを特徴的に抽出することも可能です」と天野教授。CAFIでは、化学的技術に裏付けられた新しい食品加工技術によって、6次産業化などを進める地域産業との連携も期待しています。写真は、酵素反応によって有効成分を抽出できるバイオリアクターという装置。この装置を使ってリンゴの果皮から赤い色素を抽出した糖蜜液を作るという研究も行っており、この糖蜜液を使った「まるごとりんごジャム」も、すでに商品化されている09

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