2017環境報告書
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44■ 消費に現われる態度と幸せの関係?「モノの豊かさ」よりも「心の豊かさ」を求める時代へシフトしてきたと言われる現代。様々な分野で主観的幸福感の研究が進められている。政策やビジネスに、人々がどんな気持ちで暮らしているのかについて理解を深めようとしている。私たちは、買い物をするときは、どんな意識や態度を持っているだろう?「流行や話題になっている商品を選ぶ」「ライフスタイルや趣味にあったものを選ぶ」「フェアトレード(発展途上地域と公正に取引された)商品を選ぶ」等々。水原准教授は、このような消費態度と主観的幸福感の関わりを研究している。主観的幸福感(以下幸福感)とは、どのぐらい幸せに感じているかを本人の主観を基に測るもので、幸福度の指標の一つとされる。研究*では、以下の3つの代表的な消費態度について取り上げた。商品そのものより、効力のあるイメージを重視する「記号志向」(新商品、流行、話題性、ブランド)。プレゼントやネタなど付き合いやコミュニケーションを考慮する「社会関係志向」。地産地消やオーガニックなど環境や倫理上の配慮を優先させる脱物質主義的な「脱物質志向」。■ 記号志向は、幸福感を押し下げる研究に使ったデータは、2016年9月~10月に東京圏で15~69歳の個人を対象にした「21世紀の消費とくらしに関する調査」(調査主体:グローバル消費文化研究会、有効回収数:1609件)によって収集されたものだ。調査票には、消費態度や社会観、性別、年齢、所得など44の設問があり、幸福度を問う設問も含まれている。「とても不幸せ」を0、「とても幸せ」を10にした11段階で自己評価し、該当する段階を選ぶようになっている。この幸福度のスコアに上記3つの消費態度による影響を分析評価した。結果は、記号志向は幸福感を押し下げ、社会関係志向は押し上げる、また、脱物質志向も間接的に幸福感を押し上げる効果があることがわかった。消費とは、欲求を満たす行為であることを考えると、いずれにしても幸福感にプラスに影響するようにも思われるが、記号志向の消費の傾向が強い人々は、弱い人々よりも幸福感が低くなってしまうということだ。准教授は「バブル期を象徴するようなタイプの記号消費は、自己表現という面もあるが、自己顕示欲の表れという面が強く、妬みを招きやすい。際限なく追い求めてしまうこともあり、消費することでストレスになっている可能性もある」という。また「環境や社会関係の安定を積極的に追及していく社会関係志向や脱物質志向は、妬みもなく、生活環境も自然環境もプラスになっていくと自覚できることから、幸福度を押し上げていくのではないか」と解釈している。■ 浸透する脱物質主義的な消費態度衣食住の生活に必要なものがほぼ満たされた現代社会では、消費態度が多様化している。特に生態系、社会環境、生活環境に配慮するような消費や「カーシェアリングのようにモノを所有せずにサービスを利用し、人間関係(つながり)までを含めた消費」が広がりを見せている。准教授はこのような消費態度は、人々にとって幸福感という観点からどう評価されているのかを探った。「分析結果は1980年代から徐々に始まった脱物質主義的、倫理的、社会的な消費態度が社会に浸透し、価値がおかれるようになってきたことを示唆し、これからもう少し増進していく」と見ている。今後の研究は、さらに所得、年代などの影響を細かく分析してゆく。また2016年には長野県でも公益財団法人八十二文化財団と信州大学人文学部の共同で県民の主観的幸福感を問う文化意識調査を行い、今秋、報告がまとめられるという。*「消費主義と主観的幸福感の多元的な関連性―『21世紀の消費生活に関する調査』を通して―」消費態度項目 新奇志向、流行志向、高級ブランド志向が、記号志向になる。学術研究院(人文科学系)准教授水原 俊博[人文学部人文学科 文化情報論・社会学分野]水原 俊博1996年東京都立大学人文学部文学科フランス語フランス文学専攻卒業2005年立教大学大学院社会学研究科博士課程後期課程単位取得退学(同年 博士、社会学)2005年立教大学社会学部助手2007年立教大学社会学部助教2011年信州大学人文学部人文学科准教授消費態度と主観的幸福感脱物質主義的態度項目 *回答比率は「あてはまる」「ややあてはまる」の回答比率を合算したもの

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