2017環境報告書
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43■ アオコが生成する強烈な毒素アオコとは、富栄養化した湖沼に出現する藍藻類。水面を緑の膜で覆うように広がり、腐ると悪臭を放つ。アオコを形成する数種類の藍藻類は強烈な毒素を生成する。水辺の野生動物の大量死や、ブラジルでは水源に入り込んだアオコ毒素によって52人の透析患者が亡くなる(1996年)など、世界各地で深刻な事件報告がある。アオコが生成する毒素は、大きく肝臓毒素と神経毒素に分けられ、日本の湖沼では主に肝臓毒素のミクロシスチン(MC)が検出されている。MCは、例えば飲料水などに少量入っている場合でも長期間飲み続けると、発がん促進物質として働き、肝臓がんを引き起こすと言われている。■ 諏訪湖の浄化対策研究への関わり諏訪湖では1960~1980年代にアオコが大量発生し、長野県では諏訪湖の水質浄化対策に力を入れてきた。その主軸として関わっていた研究室に所属していた朴教授は、1990年ごろからアオコ毒素の研究を行ってきた。1992年~1996年の6月~11月に、諏訪湖でイシガイ、コイ、アメリカザリガニなどの12種類の生物について含まれているMCを調査している。MCは、二枚貝、巻貝、甲殻類から検出されたが、他の生物は検出限界以下であったという。またMC含有量の多かったイシガイを部位別に見ると、肝臓の機能を持つ中腸線に53%以上が蓄積されていた。■ 分解バクテリアの発見7つのアミノ酸が強力に結合するMCは、200℃以上でも分解されない。除去するためには、活性炭ろ過や化学的な処理をする方法があるが、完全に除去することは難しいという。MCは藍藻の細胞の中にあり、細胞が死んだり、傷つけられたりすると外に溶け出す。当然、溶けだしたMCは湖水中に多量に含まれているだろう、というと、そうではなく、ごく微量しか検出されなかった。「毒素といっても有機物ですから分解する菌はいるということです」朴教授らは、MCを完全に分解するバクテリアを見つけ出し、取り出すことに成功する。MC除去に新たな道を拓くこのバクテリアは世界の注目を浴び、アメリカやイギリスなど海外の研究者や技術者から、株分けの注文を受けたという。研究室では、培養したバクテリアを高分子化合物に植え付けて世界各地へ送り出している。すでにバクテリアを使った研究論文も多数発表された。■ さらなるアオコの制御へ富栄養化につながる窒素、リンの流入を防ぎ、湖沼沿岸の水生植物を豊かにすることがアオコの大量発生を防ぐ。「本来、アオコが出ないような環境を維持するための研究を本旨とする」研究室だが、朴教授の長年の研究による知見を求めて、水道局やダム関係者など、国内外の水処理の現場から問い合わせが相次いでいる。簡便な検査方法や水処理方法へのアドバイスをする中で「短期間でアオコを無くす」あるいは処理するための需要にも応えたいと、現在は多分野の人々と協力しながらイノベーションの分野にも力を注ぐ。アオコのいる池の水中でラグビーボールを扁平にしたような2枚の羽根を持つ装置を回転させるとアオコが消えていく(写真2,3)。鉄工所がダムの凍結防止にと製作した装置が、振動派による共振でアオコの細胞を破壊する原理を明かし、応用を広げる研究に取り組んでいる。また、通常水道局の水質検査は、結果が出るまでに2~3日かかるが、迅速に結果を出すレーザーを使ったモニタリング方法の開発研究に信大工学部と共に挑んでいる。学術研究院(理学系)教授朴 虎東[理学部理学科物質循環学コース 環境毒性学(生態毒性学)]朴 虎東1986 年 江原大学校自然科学大学卒業1990 年 信州大学理学研究科生物学専攻1994 年 信州大学医学研究科社会医学系専攻1994年 信州大学理学部助手1999年 信州大学理学部助教授2012年 信州大学理学部教授写真2 千鹿頭池(松本市)2003年7月写真3 千鹿頭池(松本市)2007年7月写真1 バクテリアを植え付けたポリエチレングリコール(高分子化合物)湖沼のアオコ毒素を制する

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