信大NOW99号
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09下が懸念されている。木に成った柿が収穫されることなく、鳥のエサとなってしまっている場所も少なくない。また、温暖化による気候条件の変化も大きな課題だ。市田柿に必要なのは、昼間と朝晩の気温差。しかし現在はかつてほどの厳しい冷え込みは少ない。気温差が小さくなると、水分の抜けが悪くなり、乾燥時間が長くなったり、カビなどの発生も増加。安定生産を脅かすようになった。そうした課題を受け、信州大学工学部と県農村工業研究所が中心となり、高品質な「市田柿」の省力的かつ安定的に生産するシステムを開発することにした。そこで、松澤教授らは、既往の研究実績がある気「市田柿」とは、もともとは長野県下伊那郡高森町市田地域で生産されていたことからついた柿の品種名だ。その栽培の歴史は500年以上とされる。現在は、飯田市および下伊那郡の各地域で生産されており、2006年に地域ブランドとして登録されてからは、干し柿にされた状態のものも「市田柿」と呼ぶようになった。かつては、晴れ渡った秋空のもと農家の軒先に〝柿のれん〟がオレンジ色に輝く風景が南信州一帯に拡がっていた。現在では、衛生上の観点から屋内の乾燥室に幾重にも吊るされるのが一般的だが、所どころ、窓から〝柿のれん〟が垣間見られる風景は、南信州の秋の訪れを感じる風物詩だ。現在は海外へも輸出されるほどの生産規模となり、干し柿の代名詞のようにその名は語られる。販売高は年間40~45億円。南信州の農業を支える、重要な産業のひとつでもある。しかし、年を追うごとに生産農家の高齢化に伴う労働力不足が加速。生産力の低熱式減圧乾燥機に着目し、平成21・22年度に「経産省地域イノベーション創出研究開発事業」の支援を受け、共同研究に取り組んだ。研究用に導入された気熱式減圧乾燥機は、もともとキノコ等の乾燥に利用されているもので、庫内を減圧して低温で乾燥させることが可能な機械だ。しかし、「市田柿」の場合は単に温度をかけて乾燥させるだけでは、過乾燥となってしまい、市田柿独特の緻密な肉質と心地良い歯ごたえが無くなり、天日乾燥と同様の食感にはなら南信州秋の風物詩「市田柿」ブランドではあるが…「市田柿」の“悩み”工学部発の視点で伝統を守る、松澤教授の発想力機械で守る信州伝統「市田柿 」工学的視点で確立した機械乾燥法が製法特許を取得南信州の伝統の味「市田柿」の製造専用の機械乾燥法が平成27年4月に、製法特許を取得した。信州大学工学部と(一社)長野県農村工業研究所が平成21年度から開発を進めてきたものだ。開発に尽力したのは工学部物質工学科・松澤恒友特任教授だ。「市田柿」は柿を乾燥させて作る。従来の天日乾燥では30~40日間はかかるが、今回特許をとった方法で機械化すれば、最短4日で終えることができる。省力化や安定生産につながり、全国的にも知られる「市田柿」ブランドを後世に確実に残していくためのひとつの足掛かりにもなる。「地域が持つ課題や思いを受け継いで、『機械が守る伝統の味』を研究のコンセプトに据えた」という松澤教授。工学的アプローチによって確立した製法開発までの道のりを聞いた。工学部 特任教授信州大学工学部工業化学科卒業後、(株)ロッテ、(一社)長野県食品衛生協会試験研究所、(一社)長野県農村工業研究所を経て、2008年より工学部教授、2012年より現職。松澤 恒友    まつざわともつねPROFILEⓇ(写真上)南信州の秋の風物詩でもあった“柿のれん”。(写真下)現在はほとんどが室内で乾燥されている。窓の開閉、のれんの感覚を調整したりと、適切な温度・湿度を保つ工夫がされている。     ※写真提供:長野県飯田市(文・柳澤愛由)「市田柿」は、鮮やかなあめ色の果肉をきめ細かな白い粉が覆い、もっちりとした食感と上品な甘みが特徴の“高級ブランド和菓子”だ

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