環境報告書2016|信州大学
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浅野 良晴1974年 東京工業大学工学部卒業1979年 東京工業大学理工学研究科博士課程修了1980年 広島工業大学講師1984年 信州大学工学部 助教授1998年 信州大学工学部 教授(2016年 平成27年度建築物環境衛生功労者厚生労働大臣表彰 受彰)国際科学イノベーションセンターアクア・イノベーション拠点(COI)の中核施設図2 エネルギー消費構造―時刻別不可の推移(電力)―建築物の省エネルギーを評価する学術研究院(工学系)教授浅野 良晴[工学部建築学科] (kW)(MJ/㎡・月)(kW/㎡)電力量一次エネルギー消費量日射量省エネ25%削減省エネ+創エネ52%削減図1 一次エネルギー消費量(累計)【統計値】DEEC非住宅建築物の環境関連データベースより平日平均最大発電量169kW休日平均最大発電量179kW■ 建築物の省エネを進めるZゼブEB化 建築物の省エネ対策が急速に進められている。ZEB化のZEとは、ゼロ・エネルギー。一次エネルギー(自然界に存在するエネルギー源。この場合は化石燃料)を使用しないこと。実際には、一次エネルギーの年間消費量を正味(ネット)でゼロ、または、ほぼゼロにしようというもので、ZEBは、ネット・ゼロ・エネルギー・ビルと呼ばれている。経済産業省は2020年までに新築の公共の建築物で、2030年までには新築の建築物の平均でZEB化を目指している。ZEBは非住宅だが、住宅もZゼッチEHという同様の方針で進められている。 「省エネには3つの方法があります。第一にパッシブ手法。壁、天井、窓の断熱をよくして、冬は熱が外へ逃げにくく、夏は外の熱を取得しにくくする。第二にアクティブ手法。効率の良い設備を使うこと。第三に再生可能エネルギーを使うこと」と浅野教授。 再生可能エネルギーとは太陽光、風力などの自然エネルギーだが、教授は、効率良くエネルギーを創り出す燃料電池の活用を推進してきた。 燃料電池は、都市ガスやLPGなどのガスから水素を取り出し、空気中の酸素と結合して水と電気を作り有害なものは排出しない。発電所の電力は、発電や送電のロスからエネルギー効率が35%程度だが、燃料電池は使う場所で発電し、熱も利用でき、総合的なエネルギー効率は90%以上が可能だ。■ 国際科学イノベーションセンター設置の  燃料電池を性能評価 現在、個々に仕様が大きく異なるビルのZEB化は容易ではなく、なかなか実現できていない。そんななかで2015年6月竣工した国際科学イノベーションセンター(地上7階・地下1階、延床面積10,246㎡)では、燃料電池(100kWリン酸型燃料電池CGS)も使った可能な限りの省エネと創エネが試みられている。教授はこれらのエネルギーの消費構造を明らかにし、燃料電池の性能を評価した。 結果を端的に示したのが図1と図2のグラフになる。 図1のAの統計値を基準値とし、建築と設備による省エネで基準より25%削減し(B)、さらに創エネとして太陽光発電と燃料電池で発電したものを加味すると、基準値から52%削減に成功している(C)。その構造を見ると(図2)燃料電池の安定した出力が確保されていることがわかる。 「今回は50%程度の削減目標と、設計、運用をほぼ一致させることができました」と教授。 すでに住宅用の燃料電池は普及し始めているが、同程度の規模のビルでは、これまでほとんど使用されていなかった。現状の52%削減はトップレベルの成績で、燃料電池普及への今後の展開に期待が高まっている。 ちなみにこれらの結果はセンターに設置されたBEMS(ビル用エネルギー管理システム)のデータからまとめられたもの。毎分の各設備の電力量、流量、温湿度などを計測した膨大な数値から、その関係性を見つけ、診断している。このような技能を持つ研究者や技術者は、日本ではまだまだ少なく、建物全体の省エネ、創エネの詳細を把握し、設計、評価できる人はごく限られている。■ 省エネ推進を目指して 住宅、非住宅問わず、建築物の環境設備に取り組んできた教授のもとには、省エネ化をどのように進めたらよいかと多くの工務店から相談が寄せられているという。教授は「ビル使用者の事業継続を踏まえながら、建物全体を省エネという観点から設計して運用し、ZEB化を実現していくためには、個々に相談できる省エネセンターが必要」と感じている。教授は中小の工務店にまでノウハウを含めた様々な情報が行き渡り、省エネが加速することを願っている。41

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