環境報告書2016|信州大学
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それはESDも同じです。そこが他の環境問題への取り組みとESDの違いでもあります。エスポー市の場合、市長がリードする都市計画を進める中にESDとRCEが位置づけられているのです」と教授。 未来にわたり住民の安全安心な暮らしを継続するためには環境に配慮した都市の構造やライフスタイルが必要で、人権問題も解決されなければならない。これはESDの目指す持続可能な社会でもある。 報告書には、上記の目的とビジョンを念頭に行った次のような実施報告の記載もある。 ○初等教育から高等教育までのすべての教育機関においてESDが実施されている。すべての保育園と学校にはESDの実施計画があり、教育を受けた1人以上のエコ・サポーターがいる。○いくつかの学校と保育園で実施される教育プログラムで子どもたちは意思決定に参加し、より持続可能な方向へと自らの行動を変化させている。○エスポー市は市の職員をエコ・サポート・スタッフとしてトレーニングし、500人以上育成した。ほかに、大学では数多くのESDプログラムがあること、さまざまな団体のESDの催しに23,000人以上の市民が参加したこと、さらに福祉や健康に関するシステムが開発されていること等々。             2015年までのほぼ4年間の実績として、目覚ましい内容が見て取れる。 ◎ESD、RCEを全体的な取り組みとして 「都市計画に位置付け、地域全体でこのように包括的に取り組んでいるところは、他にはないと思います。環境負荷を軽減するための地道な活動は大切ですが、実際に持続可能な社会をつくろうとする時、個人的な頑張りでは限界があります。エスポー市の取り組みを見て、個人がそこまで頑張らずともできるシステム・体制をつくりあげることが重要だと思い知らされました」と教授。 ヌーティネンさんたちの報告書の最後には、未来のエコ社会への変革の期待と願いが込められ、エスポー市長ユッカ・マケラ氏の言葉が紹介されている。 「もし14,000人の市職員と250,000人の住民が何かをするときの態度と方法を変えるなら、目覚ましい変化が起こり得る。」 そして、持続可能な社会を望むのであれば、すべての命を尊重し、助け合い、次世代へ繋いでいくことと主張する。株丹教授は、今後もRCEエスポーの実態調査に赴く予定だ。◎参加した学生たちの感想から■参加者が自主的に意見を出すことの重要性 ウプサラ大学のRCEに関わっている二人の日本人女性とスウェーデン人女性は、自分たちが手掛けているゼミや講習で参加者の自主性を尊重し、みんなでアイディアを提案し、活動を行っている。クリエイティブな力を身に付けることは、ESDにとって重要な持続性、つまりサスティナビリティを身に付けることにもつながる。また幼少期や青年期の教育から、そのようにみんなで考え、話し合う場を提供することが重要なことを学んだ。 エスポーでは、RCEのスタッフの自宅に招待していただいて、ゆっくりと話を聞いた。さまざまな団体と繋がることで社会全体との繋がりを持つことができ、やはり参加者たちがみんなで自主的にさまざまな意見を出すこと、積極的な態度を養うことが重要だと教わった。また精神的にも環境的にもライフスタイルを意識することも必要であると感じた。(森江かおり)■大学全体から学外まで、多くの人が関われるように これまでは「ポイ捨てはいけない」「節電する」といった実践的なことばかりで環境問題にあまり関心が持てず、どこか遠いもののように感じていた。しかし今回の研修では教育に観点を向けて環境問題への取り組み方について新たに学ぶことができた。 ウプサラ大学では学生がコーディネーターとして授業の構想を練るなど、受け身で学ぶのではなく、自分から主体的に動ける環境を作っている。それが学生たちの意欲を高め、より環境問題を身近に感じられるようにしていると思った。エスポーではすべての学校でESDの授業を学べると聞いた。小さいうちから環境問題について考えるのは、問題意識をしっかりと持った大人に成長するだろうと思う。どちらのRCEの人たちの話からも「つながり」の大切さについて考えさせられた。どちらも企業や政治、町の人々など様々な立場の人々が連携することが重要であると強調していた。このことをISO学生委員会の活動にも生かし、ISO内部だけでなく、大学全体から学外まで多くの人が関われるような活動を行っていけるようにしたいと思った。(渡邊里穂)*1 参加者の新山正隆さんが抄訳したものを参考に記事を作成した。*2 発行年:2015年 発行元:Aalto University in cooperation with Laurea University of Applied Sciences and Built Environment Innovations RYM Ltd    (アールト大学、協力:ラウレア応用科学大学および建築環境イノベーションRYM)ヨーロッパ地域開発基金から資金援助を受けた都市エコシステム活性化研究   プログラム(2012~2016年)研究成果の報告書 RCEエスポーのヌーティネンさんとスーパーのデポジット(ヘルシンキ)北欧らしい電車内の子ども用のコーナー(フィンランドのトゥルク~ヘルシンキ間にて)39

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