環境報告書2016|信州大学
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卒業論文卒業論文卒業論文理学部 生物科学科 大堂 太朗農学部 食料生産科学科 今野 沙弥香 標高傾度にそった植物の 群集形成メカニズム: 形質に基づいた解析 植物群集の形成には、大きく分けると環境と競争の二つのメカニズムが関与していると考えられている。これらのメカニズムの調査には形質を用いた解析がよく行なわれている。環境の影響が大きい群集では生育する環境条件に最適な形質をもつ種しか生存できず、形質値の分布は制限される。一方、競争の影響が大きい群集では、種は生態的に類似する他種を排除するという考え方から、形質値の分布は分散する。 山岳においては、標高が上がるにつれて環境の変化が大きいことや、植生が落葉広葉樹林から常緑針葉樹林へと変化することから、標高は、植物群集の形成に対して重要な役割を果たしていると考えられる。そこで本研究では、標高傾度にそった植物群集の形成メカニズムの調査を個葉面積、葉の厚さ、葉の窒素含有量の三つの形質を用いて行なった。 個葉面積については高標高で制限され、窒素含有量では低標高での制限が観察された。葉の厚さでは標高にわたって制限は観察されなかった。一方、競争の影響はすべての形質に対してすべての標高で観察された。このことから、標高傾度にそった環境の影響の大きさは、それぞれの形質に対して異なるパターンを示し、競争の影響は標高にかかわらず大きいことが示唆された。今後は、このような形質の制限・分散パターンが生物多様性にどのように影響するかを明らかにする必要がある。 植物が病原体から身を守る 分子メカニズム 地に根を生やし移動することができない植物は、常に様々な環境ストレスに曝されている。中でも、病原体感染による病害は最も深刻な環境ストレスの一つであり、感染した個体は最悪の場合死に至る。また、農業の現場においては、農薬により病害を防除しなければ、農作物の収穫量が激減してしまう。しかしながら、農薬の使用には、環境や健康に及ぼす影響に対する懸念や経済的な問題が存在する。そのため、農薬に依存しない病害防除法の開発が求められている。 植物には高度な抵抗性機構が備わっている。そのため、植物に感染し病害を引き起こす病原体は極一部であり、ほとんどの微生物は植物に感染することができない。私たちはこの植物自身が持つ抵抗性機構を利用して病気に強い植物を開発することを目指している。 本研究では、そのための基礎として、植物のシグナル物質であるサリチル酸の生合成機構について研究を行っている。植物は病原体を認識すると様々な抵抗反応を迅速に誘導するが、その際に働く主要なシグナル物質の一つがサリチル酸である(図を参照)。マイクロアレイという数万種類の遺伝子の発現量を一度に解析できる手法を用い、サリチル酸の合成と相関して発現が誘導される遺伝子を網羅的に同定することに成功した。今後は同定した遺伝子の機能解析を進めサリチル酸の生合成経路を明らかにする。図B サリチル酸の化学構造  図A 病原体に対して抵抗反応を誘導する植物葉  環境への取り組み022-1 環境教育35

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