環境報告書2015|信州大学
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持続可能な社会を実現する活動拠点の構築をめざして環境教育海外研修:オーストリア・ドイツ担当教員:学術研究院(人文科学系)教授株丹洋一[人文学部人文学科 比較言語文化] 2015年3月16日~21日、オーストリア、ドイツを巡る環境教育海外研修が行われた。研修の目的は、オーストリアで持続可能な開発のための教育=ESD*の活動拠点であるRCE*とドイツで行われているデポジット制度を調査することだった。ESDやRCEは、国連大学が中心となって進める重要な取り組みだが、その認知度は高いとはいえない。株丹洋一教授は、ESDやRCEへの理解が深まるよう研修を企画。また今春からRCEに関する研究を本格的にスタートした。*ESD=Education for Sustainable Development*RCE=Regional Centers of Expertise on Education for Sustainable Development)■オーストリアのRCE ESD、持続可能な開発のための教育とは、持続可能な社会の担い手を育む教育(ユネスコ)のこと。持続可能な社会とは、環境保全ばかりでなく、社会をつくる様々な人間活動がバランス良く営まれてこそ成り立つ。国際理解やジェンダー、平和教育など社会の諸問題を解決するための学びも含まれている。 3月18日に訪問したRCEウィーンは、ウィーン経済大学に事務局を置く、経済と持続可能性を結びつけることを目的としているRCE。22,000名の学生を抱えるヨーロッパでも最大級の大学で、ウィーン市内の4大学の関係者と週1回ミーティングを開き、ウィーン市の社会的経済的環境的発展を変革するプロジェクトを進めていた。ウィーン市のESDのシンクタンク的な存在となっている。 翌日は、ウィーンから150kmほど離れた、オーストリア第二の都市であるグラーツへ。グラーツ大学に事務局を置くRCEを訪問した。世界のRCEのリーダー的存在として知られるRCEグラーツでは、大学の研究者10名が活動し、事務局には専従で2名が勤務。EUプロジェクトを9大学と連携しながら行い、オーストリアの国家的なプロジェクトも手掛けている。一方で地域プロジェクトも積極的に取り組み、大学生を中心にグラーツ市内の小学生から大人まで参加する、森林ハイキングコースの標識作りとワークショップなども主催し、高い評価を得ている。 市民にとって持続可能な社会という視点が当然のことになり、どのような場面でもその視点が活かされていくよう講習会やイベント、大学の授業を行っている。設立者から実感を持って語られる熱心な言葉に、学生たちもESDが目指す本来の意味を理解し、その重要性を感じ取っていた。■RCEの活性化を願って 昨年11月に、国連「ESDの10年」(2005~2014年)の最終年として、名古屋市と岡山市で「ESDに関するユネスコ世界会議」が開催された。国連「ESDの10年」とは、ESD促進のための期間で、2002年ヨハネスブルグサミットで日本が提唱し、同年の国連総会で決議されて推進機関をユネスコ(国際連合教育科学文化機関)に指定した。ユネスコはESDに取り組むユネスコスクール加盟校の増加を推進し、日本では2006年20校だったものが、2014年には807校に増えている。この10年間に「0」だったRCEは129ヶ所となり、多様な取り組みが質実ともに広がったことなどが成果として挙げられ、国連「ESDの10年」の総括は、概ね肯定的な評価だった。また、2013年に決められた今後の指針(GAP=グローバルアクションプログラム)も示され、世界会議では、さらに活動を強化して継続していくことが宣言された。 しかし、「私は、この10年でRCEが期待されていた成果を上げることはできなかったと思っています」と株丹教授はいう。「持続可能な社会をつくるために“世界的な学びの場”をつくろうと、国連が切り札として始めたのがRCE。しかし、この10年でできたのは、それぞれの拠点をつくって、それぞれの活動をするところまで。多くは、部分的な取り組みに留まっています。もっと包括的に、まち全体が動くような推進力がなければ、持続可能な社会の実現はいつになるのかわかりません」と教授。 停滞するRCEの問題点を明らかにし、改善策を見出して活性化することが、研究の目的だ。教授自身がRCEの運営に関わることも計画に入っている。 アメリカのゴア元副大統領が「環境問題は、ライフスタイルの問題」と訴えるように、技術革新の力で、ある程度の環境が浄化できるようになったとしても、大量なエネルギーを消費し、環境汚染を続ける私たちのライフスタイルが変わらなければ、持続可能な社会の実現は望めない。ESDの推進は、ライフスタイルを転換させる力となる。そのためにRCEの活性化が急務であると、株丹教授は考えている。平成26年度グローバル人材育成事業ウィーン経済大学の分別ごみ箱35

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