2014環境報告書|信州大学
38/56

学術研究院准教授(工学系)[工学部建築学科准教授] 建築環境工学高村 秀紀 ■正しい選択のためのデータを蓄積 住宅の建設から解体に至るまでのライフサイクルCO2排出量(ゆりかごから墓場までのCO2排出量)削減がテーマ。建設時には、どんな設計で、どんな材料を、どう使用すればCO2やゴミの排出量が少なくなるか。運用時(生活時)を快適に過ごしつつ、省エネを実践するためにはどんな設備をどう使うか。さらに解体時には、建築廃材をどう処理し、再生させていくか。時間と手間のかかる広範な研究に挑んでいる。 たとえば建築建材を例にみると、「木は環境にやさしい」という印象を持つ人は多いだろう。だが、「木の家」という括りに疑問を感じてしまうほど、木の種類、生育環境、伐採法、運搬法、乾燥法やその燃料の種類、使用法によって、製材製造時のCO2排出量には大きな差があるという。 「木の家イコール環境に負担が少ないという曖昧なイメージではなく、地域に適した家を建てるならどんな建築材を使えばいいのか、どう暮らせばいいのか、きちんとした判断のためには選択の一助となるデータが欠かせない。が、まだまだ蓄積されていないので、とにかく現場でのデータ収集をコツコツ続けることが必要」と高村准教授。■建設現場で、住宅で、地道な調査は続く 住宅建設時のCO2排出量を明らかにするためには、一棟の家に、何が、どれだけ使用されているかを計測しなければならない。地元工務店と施主、学生たちの協力を得て、約5か月間家づくりの現場に張り付き、搬入される材料と搬出されるゴミを量った。釘1本、クロス1枚に至るまで、あらゆる材料の製造過程でCO2は排出されているので、小さな素材も見逃せない。調査点数は約千点に及んだ。 最もウエイトの重い運用時のデータ収集も行っている。一般家庭に協力してもらい、日々の暮らしでどれだけのエネルギーを使用しCO2を排出しているか、調査を続けている。オール電化住宅、電気とガスの併用住宅のエネルギー消費量、家庭用燃料電池コージェネレーションシステムの効率や太陽光発電システムの発電量の実態を明らかにしている。これらの実態データがあれば、家のつくり、家族構成、生活サイクルに応じた最適な設備が提案できる。 信州では寒さも重要なポイント。住宅設備機器の規格は温暖地の外気条件をもとに定められているが、寒冷地でも同レベルの値が出せるか、これも実態に即した明確なデータは少ないという。 トータルで住宅のあり方を検討するためには欠かせない解体時の調査も、今後は研究予定だ。■家づくりに“環境”が不可欠な社会を 建設時に発生する廃棄物を埋立処分や熱利用しない焼却処分をしない“ゼロエミッション化”は一部の大手ハウスメーカーで始まっている。しかし、地場の小規模な工務店が廃棄物のゼロエミッション化に取り組もうと考えても、独自の取り組みをすることは人的にも予算的にも難しい。そこで、工務店の実情に即した現実的な手法を探ろうというのが、次なるステップだ。 現場で働く人々の環境意識向上にはじまって、現場の作業を妨げない効率的な廃棄物の回収方法、分別のルール作成、分別後の処理方法など、取り組むべき課題は多いが、企業に勤務した経験が活きるのは、こんなとき。現場の実情や職人たちの気質に精通し、独自の人脈とネットワークを持つことが研究のプラスになる。研究のための研究で終わらせたくないと、建設現場や処理業者と連携した廃棄物処理のための協同組合づくりなども検討中だ。 「いま家づくりで重視されているコスト、デザイン、省エネだけでなく、建設時の環境負荷という要素も含めて住宅を考えよう、という大きな流れをつくり出していきたいですね。建設時の環境負荷まで考えた工務店が、いまはきちんと評価されていないのも残念ですが、建設時の環境負荷に配慮した工務店が評価されれば、家を建てる人たちの意識が変化するかもしれません。乗用車購入の選択肢のひとつがハイブリッドカーになったように、住宅選びにも環境が欠かせない社会が訪れることを期待したいです」高村 秀紀1971年 神奈川県生まれ1996年 信州大学工学部社会開発工学科卒業1998年 信州大学大学院工学研究科博士前期課程修了2001年 信州大学大学院工学研究科博士後期課程修了2004年  化学関連企業の勤務を経て、信州大学工学部助手2010年 工学部社会開発工学科助教を経て、准教授2環境への取組み2-2 環境研究2-2 環境研究建築物のゆりかごから墓場までを考える林地から製材工場まで木材を追いかけて測量。伐採のための重機やチェーンソーの燃料まで漏らすことなく綿密な調査は続く建築現場での調査。出入りする素材を一つずつ測る。協力してもらう工務店や施主へのフィードバックも大切にしている住宅の消費電力量や太陽光発電と燃料電池の発電量の計測器を分電盤に取り付けて、寒冷地の家庭の実態を計測中37

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です