2014環境報告書|信州大学
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特 集環境問題と法律環境と生きる人づくり間伐を体験してみると曇った表情で疲れたと言う生徒も、木が倒れる瞬間にはその迫力に目を輝かせます。自分たちが倒した木を短く刻み、大事そうに持って帰ります。私たちはこのような環境教育を木育と呼んでいます。木育をすることで、都市部住人の中でも次世代を担う子どもたちの心のどこかに、山や林業のことが残ってほしいと考えています。 信州大学は、自然環境の保全、産業の育成と活性化などを目的に地域との積極的な連携を図っています。さらに、農学部と根羽村は連携協定を締結していて、里山資源を活用して生活している私たちの地域の課題解決に取り組んでいただいています。今後も信州大学の持つ知識や学生の想像力・行動力・チャレンジ精神に期待して、村民と行政も一緒になって地域活性化に奮起していきたいと思います。 私は、平成22年3月に信州大学法科大学院を修了し、平成23年12月から佐久市で弁護士として働いています。環境と法律という観点から、環境問題について述べたいと思います。 「環境」には、大気や水、土壌といった自然的構成要素や、生態系・生物の多様性、森林、農地などの自然環境だけでなく、人と自然との触れ合いなど、様々なものが含まれています。そのため、「環境法」と一口に言っても、環境基本法を始めとして、大気汚染防止法、水質汚濁防止法、騒音規制法など、種々の個別の法律が存在します。 日本の環境法は、四大公害事件といった悲惨な公害の発生を機に、公害対策という観点から構築、展開されてきました。徐々に、人体や財産への被害防止という観点だけでなく地域環境の汚染を防止する観点が加わり、さらに地球規模の環境問題や快適な環境の保全・創造に対する関心が高まってきたことから、現在では、環境を破壊から守るために環境を支配し、良い環境を享受できる「環境権」が広く認識されるに至っています。良好な日当たりを確保する日照権や、自然の眺望や歴史的文化的景観を享受する景観権なども、環境権の一つといえます。 ただし、大気や水、土壌などの資源は、私たちが生活していく上で不可欠なものであり、万人の共有の財産であることから、一定程度の不利益は受忍しなければならないという関係にあります(これを受忍限度論といいます)。この受忍限度が判断された具体例として、悪臭が問題となった興味深い例を二つ紹介します。悪臭は、人の嗅覚に不快感を与える感覚公害であり、生活環境に対する問題として悪臭防止法の規制を受け、環境法の分野に含まれる問題なのです。 一つは、焼鳥店から排出されるにおいについて、近隣住民から臭気排出の差し止めと損害賠償が請求された例です。この事案では、臭気を緩和する改善策が講じられ、臭気を感じる時間帯が限られていることなどを考慮して、近隣住民の受忍限度を超えているとはいえないと判断されました。もう一つは、菓子工場から排出されるにおいと騒音について、近隣住民から損害賠償が請求された例です。この事案では、菓子特有の甘いにおいを不快とするかには個人差があるとした上で、においが長期間、継続的に排出される場合にはかなりの苦痛となるとし、違法操業などの悪質性も考慮して、受忍限度を超えていると判断されました。 この二つの例は大気・空気の共有から生じた問題ですが、先に述べた受忍限度論の趣旨は、私たちが囲まれている様々な環境にも共通するものです。環境問題は、地球規模のものだけではなく、私たちの日常生活にも密接に関連していますので、小さなことでも興味を持っていただきたいと思います。森泉邦夫法律事務所 今井智恵さん今井智恵・いまいともえ1983年 長野県上田市生まれ2002年 佐久長聖高校卒業2006年 東京都立大学法学部卒業2010年 信州大学法科大学院修了2011年 12月から佐久市の森泉邦夫法律事務所にて勤務間伐体験を終えての子ども達 体験学習をしに集まった都市部の人々16

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