2012環境報告書
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山間農村集落の持続可能モデルの模索●「信大農園隊」に参加して支える農業と農村集落を復興・再生することを軸にして後世に引き継いでいこうと、村民の方々と心を一つにした復興計画づくりに携わったのです。 農村社会学が専門で地域ブランドによる村づくりを研究する村山教授は、その専門家としての知見を活かして計画作りに協力しました。 木村名誉教授や村山教授ら、中山間地域プロジェクト(「中山間地域の再生・持続モデル構築のための実証的研究」)に参加するメンバーは、震災直後から栄村の被災状況の調査に駆け付け、長野県の関係部局や中越地震からの復興の経験を持つ新潟大学災害・復興科学研究所の丸井英明教授らの協力も得て、一カ月半後の2011年4月29日には、「長野県北部地震栄村現地報告会」を長野市の工学部キャンパスで開催しました。 この時点ですでに、①震災の被害は複合的であり、復旧・復興には「総合的な視点」が必要であること、②震災を契機に耕作放棄地の増大や離村者の増加の危険が高まるため、複合的農業を軸とした再興とそれによる集落の維持を基軸に置くべきこと、③単なる震災復旧にとどまらず、新しい形の山間地農業のあり方(栽培品種・栽培技術・営農体制)や農産物の販売方法を含めた集落共同体の将来ビジョンを示す必要性―などを指摘し、栄村が進むべき道をいち早く明確にしたのでした。そしてその1年後にまとめられた復興計画はまさにその線に沿うものなのです。 こうした迅速な対応ができたのは、長年の研究の蓄積のゆえです。例えば、木村名誉教授は、「田直し」事業など独自の取組みを進めた栄村に早くから注目し、1984年から2004年までに5~6年ごとに村内の全水田の整備・荒廃状況の変化を調査してきていました。また、農学部の内川義行助教や学生と共に、阪神淡路大震災や中越大震災の際の棚田・ため池等の被害や復旧の調査を長年にわたって行ってきたことが基礎になっています。 こうした自身の取組みついて、木村名誉教授は「農山村の景観や環境は、その地域の人々の生活や生産の結果生まれるもの。『地域を見る』という視点が重要だ」と話します。 環境・景観は人々の営みと共にあるもので、様々な要素が絡み合う複合的で総合的なものです。だから、それを考察したり、その保全のために行動したりする場合にも、「総合的な視点」と「多領域の学問の連携と共同」が必要になるのです。 このような考え方は、現在、本学が、大学を挙げて力を入れる「環境教育」の核心でもあります。大震災という歴史的事態に直面して、こうした考え方が行動として湧き出してきたものの一つが、この中山間地域プロジェクトの関連する取組みだと言えるでしょう。多角的視点から災害調査研究山岳科学総合研究所が報告会開催栄村復興計画に報道各社も注目。大きく報じる信濃毎日新聞(2012年7月5日付)2012年7月8日に開催された長野県北部地震災害調査研究報告会研究室で話す木村和弘名誉教授 環境と人間についての問題意識をさらに多領域に広げ、多角的視野から被災地の状況を調査研究したのが、山岳科学総合研究所を中心とした取組みです。2012年7月8日には、この調査報告会が栄村文化会館ホールで開催されました。 本学では2011年4月に被災地の復旧・復興に役立つ研究テーマを募集し、①震源域の活断層調査、②震動による地盤災害、③震動による建物被害、④農林地の被害調査と復興策、⑤鳥類や家畜類の被害調査と支援策―の領域に関わる9件のテーマが採択されました。そして、冬が到来し、雪が積もり始めるまで、山岳科学総合研究所の研究活動の一環としてフィールド調査が進められてきたのです。 調査は専門的で多岐にわたりましたが、例えば地盤の状況を地中レーダーを用いて調べた調査や、栄村周辺の活断層や地形地質の調査、倒壊建物と構造の調査などは、今後、栄村復興計画に沿って、人々の生活と暮らしの再建のために、さらに深化させ、具体的に活かしていくべきものだったと言えるでしょう。 本学の研究者たちが、今まで以上連携して研究を進め、被災地の復旧・復興に貢献するだけでなく、環境と人間のあり方を好転させる方向性を示すことが求められているのです。 ◎特集1◎ 震災への取組み8

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