2012環境報告書
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修士論文 現在、固形廃棄物の増加や資源エネルギーの枯渇などが社会問題となっており、このような問題に対し、高分子材料としてバイオマス由来の生分解性高分子について盛んに研究が進められている。生分解性高分子とは再生可能資源から生産され、環境中に存在する微生物によって、水や二酸化炭素などに分解される物質である。 本研究では、微生物(酢酸菌)より生合成されたバクテリアセルロース(BC)と水溶性高分子であるポリビニルアルコール(PVA)の2種類の生分解性高分子を用いる。BC、PVAはそれぞれ美容パックやスピーカーコーン(BC)や医療用材料(PVA)など幅広い分野で用いられている。しかし、BCは高い力学特性を持つが高価で伸縮性がなく、PVAは安価で高伸縮性を持つが力学特性は高くない。そこで、BCにPVAをブレンドすることによって互いの特徴を補いつつ、単一材料よりも優れた物性や新たな機能性を有する高分子材料の開発を試みた。 本研究では、BCやPVAのポリマー濃度、ブレンド比、PVAのケン化度や分子量を変化させたブレンドフィルムを作製した。作製したブレンド試料に対し、引張試験、熱分析、X線分析などを行うことで、最適なブレンド比やブレンドに適したPVA試料の構造因子を見出すことに成功した。BC100%のフィルムは白濁不透明、PVA100%のフィルムは無色透明であり、BC/PVAブレンドフィルムにおいて白色半透明であるがPVAブレンド比の増加と共に透明性が向上した。BC/PVAブレンドフィルムのTMA測定結果より、BC100%フィルムは330℃付近から収縮を開始したが、特定のブレンド比で作製したBC/PVAブレンドフィルムは350℃まで試料長に変化が認められなかった。結果として、両分子鎖間に働く水素結合による相互作用から、耐熱性と寸法安定性を有する高強度生分解性ブレンドフィルムの開発に成功した。耐熱性と寸法安定性を有する高強度BC/PVAブレンドフィルムに関する研究杉脇 正規修士論文工学系研究科 感性工学専攻 鉛は神経毒性など摂取した生物に悪影響を与えることが知られている。そのため水道あるいは排水に鉛イオン濃度の基準値が設けられている。水からの鉛の除去法としては、pH調整法や硫化物法が一般的に使用されているが、それぞれ濾別が困難なこと、悪臭がすることなどの問題があり、新規の鉛除去法の開発が必要とされている。とくに、環境に対する負荷の低さという観点から環境中で生物分解される生物資源を利用した新規の鉛除去剤の開発が求められている。 羊毛は天然繊維資源の中でもリサイクルが十分に進んでおらず、新たな利用法の開発に注目が集まっている。羊毛はケラチンというタンパク質を含有している。ケラチンは硫黄原子を多く含み、種々の金属と強い相互作用を示すことが期待できる。そこで、本研究では羊毛から抽出して得られたケラチンのコロイド溶液に着目し、これを、鉛の除去剤として使用できないか検討を行った。 鉛(II)水溶液にケラチンコロイド溶液を添加すると、凝集体の沈澱が観測された。さらに上澄み液の鉛(II)濃度が減少した。すなわち、鉛(II)イオンとケラチンコロイド粒子が凝集し、沈澱が起こったと考えられた。 そこで、ケラチンコロイドと鉛の凝集反応を利用した鉛の除去法について鉛の除去率が最大となる条件を模索したところ、鉛イオンの除去率はpH5で最大87%を示した。また、凝集体の形成は10秒程度で完結することも確かめられた。すなわち、この手法は、鉛イオン溶液に生分解性のあるケラチンコロイド溶液を加えて、ろ過するだけで鉛イオンが水試料から80%以上、除去できるという非常に簡易な鉛除去法であることが分かった。 ケラチンコロイド溶液は①環境に優しい材料であること、②素早い鉛の除去が可能であること、③鉛の除去法として簡便に使用できること、といった点から、Pbの除去剤として有用であることがわかった。羊毛から抽出したケラチンのコロイド溶液を用いた鉛の除去と回収関本 有莉修士論文工学系研究科 応用生物科学専攻PVAブレンド比の増加と共に透明性が向上BCブレンド比の増加と共に寸法安定性が増加2-1 環境教育BC/PVA:100/075/2550/5025/750/10027

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