2012環境報告書
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◎特集1◎ 震災への取組み地質と被害の関係を調査。啓発活動に取り組む 地質学、中でも活断層が専門の大塚教授は、「信州大学に在籍する専門家、『地質屋』として何をなすべきか、2011年ほど、その使命を感じたことはなかった」といいます。長野県栄村や松本市南部の被災地域を丹念に歩いて調査し、地質的な特徴や地盤状況について、テレビやラジオで、あるいは公民館など、県内各地で講演してきました。広く地質の情報を提供し、防災に役立てることができればと、精力的に啓発活動を行っています。 大塚教授に聞きました。◎インタビュー大塚 勉 教授(地質学・全学教育機構) 東日本大震災の翌日栄村で発生した地震。大塚教授は、その直後に理学部地質関係の卒業生らと共にチームを組んで調査を始めました。積雪のある中に「我もわれも」と卒業生が手弁当で参加する姿に、「同窓生としての一体感を強く感じた」といいます。 雪解けと同時に信州大学山岳科学総合研究所と神戸大学の共同研究で「地中レーダー」による調査も実施され、地盤と被害の関係を調べました。「甚大な被害の出た栄村青倉地区や森地区は、河岸段丘で地盤はしっかりしているだろうと予想されていたのですが、意外にもかなりの軟弱な地盤が存在し、それが被害を大きくした可能性が高いことが判りました」と教授。現在、この軟弱地盤の成立について調査継続中です。 続いて6月30日に松本で震度5強の地震が発生。大塚教授の研究室では、発生したその日から被災地に入りました。「路地という路地を歩き、家屋の被害を地図とカードに記入して」調査。その件数は、11月初旬までに2700件以上に上り、結果は、面積あたりの被害発生率として図に示しました。 震源地付近で被害が少ないところがある一方、離れた地域でも被害が集中している地域があり(図1)、「揺れは震源地からの距離よりも、地盤状況に大きく左右されていた」ことが顕著に現れました。 大塚教授らの調査を受けて信大震動調査グループ(代表:小坂共榮名誉教授)は「地盤状況と『揺れ』の状況をさらに広範囲で調査しよう」と、松本市内全域にアンケート調査を行い、約55,000部を配布。回収した約20,000部の中には、震度6強以上の「揺れ」を感じたという回答もありました(公表は震度5強)。 「未だに牛伏寺断層などよく知られた断層から離れていれば安心だと思っている人もいますが、それ以外にも多くの未知の活断層があると考えるべきです。また被害は地盤状況に大きく影響されるのです」と教授。 多くの県民は盆地に住んでいます。これらの盆地はプレート同士が押し合って断層をつくり、断層に被災地域を歩く。被害調査と地盤の関係図1家屋の被害率/震央(★印)の東側に単位面積あたりの被害率が高い地域が広がる減災のために必要な地盤情報を集約し、公開すること1軒ずつ被害の状況を記録する研究室の学生■1955年愛知県生まれ。1979年信州大学理学部卒業。1987年大阪市立大学大学院理学研究科博士課程修了。1989年信州大学教養部講師。1991年同助教授。1995年理学部助教授。2008年全学教育機構教授。沿ってできた窪地に土砂が堆積したもので、基本的に軟弱な地盤だといいます。 「公民館などで話をすると、実際にその地域でどのような被害が出るのかとよく聞かれますが、今は正確には答えられません。それを判断するのに必要なのが、地盤情報です。被害軽減のために地盤情報を集めて公開することが必要だと思います。現在は建設関連のボーリング調査の情報が蓄積されてきていますが、減災に活かせる状態ではありません」 全国的に見ても、地盤情報の集約、公開は、ほとんど例がありません。「今後は、自治体の協力を得ながら、必要な調査も行いながら取り組んでいきたい」と、教授は長野県の防災活動への意気込みを語りました。11

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