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「ハーバード大学経営大学院 留学記 1」(2011.11.18) 

著者
牧田幸裕 准教授

この夏、僕はHarvard Business SchoolのGlobal Colloquium on Participant-centered Learning に参加することになった。大学で「教える」ことは多々あるが、「教わる」のは久しぶりである。 学ぶときには、Logを残すことが大切だ。素晴らしい刺激を受けても、その刺激は時間がたつにつれ、あっという間に色あせていくからだ。そこで、本コラムにHarvardの日々を残していこうと思う。

【Day 1】

ハーバードの凄さを感じる最初のポイントは、実業界からの支持の高さだ。ハーバード出身の学生が事業に成功し、または投資銀行で成功し、その後大学に対して後進のために莫大な寄付をする。また、インドのタタグループのような(歴史はあるものの)新興企業が、莫大な寄付をする。それらの寄付を受け、ハーバードは世界最高のコンテンツとファカルティを用意する。そこで学んだ優秀な学生が、投資銀行やタタグループにジョインし、これらの企業は更に競争力を高めていく。

大学運営交付金や科学研究費を減らされ、どんどん競争力を失う日本の大学とは対照的な姿だ。

そして、ハーバードの凄さを感じる2つ目のポイントは、本物のケースメソッドだ。今回参加しているプログラムは、学生が全て大学の先生。だから、ケースの内容自体は、それほど問題ではないし、そもそも我々にとっては難しくもない(ただ、量は多いし、日本人にとっては英語の壁は免れない)。だから、「内容」ではなく「教え方」に力点が置かれる。

僕は国内で自分なりにケースメソッドを確立し、受講生からもそれなりに高い評価を受けてきた。しかし、こうやって改めて本物のケースメソッドを「教え方」の観点から学ぶと、反省し改善できるポイントも多い。短いレクチャーだったが、学ぶところは多かった。

あっという間に夕方になり、レセプション。ここではイギリスの参加者と仲良くなり、しばらく歓談。その後ディナーになり、今度は台湾の先生たちと仲良くなった。

【Day 2】

本日から、ケーストレーニング。ここでハーバードと日本の大学の教育方法の大きな違いを思い知らされる。それは以下の通りだ。

1、日本の大学「問題を解くことが大切である」
⇔ハーバード「何が問題なのか明らかにすることが大切である」

2、日本の大学「とりあえず過程を網羅すること(cover)が大切である」
⇔ハーバード「全部網羅しなくてもよい。何か発見(discover)できれば、それでよい」

3、日本の大学「判断・意思決定の拠り所がない」
⇔ハーバード「判断・意思決定の拠り所となる倫理・規範がある」

4、日本の大学「ツールを正しく使えるようにする」
⇔ハーバード「ツールを使い、何が実現できるか考える」

ハーバードでは特に3番の意思決定の拠り所となる倫理・規範を重視する。というのも、経営者の役割を「選択の意思決定」だと考えているからだ。組織の方向性を決める場合には、何をして、「何をしないか」「何をやめるのか」という意思決定が必要になる。 何かをしない、やめる場合には、何かを切り捨てなければならない。そうすると、何かを切り捨てる、すなわち、創業の同志を、社員、OBを切り捨てなければならない。改革するときに誰に対しても禍根を残さないということはありえない。 それでも、そのような意思決定をするために、リーダーとして意思決定の拠り所となる倫理・規範が重要なわけだ。「いい人」がリーダーになりやすい日本企業とは、考え方が決定的に違う。

日本の教育とは違う側面を、まざまざと見せつけられた。このようなハーバードの姿勢は、僕にとっては馴染み深い考え方なのだが、それは京都大学で得たものではない。アクセンチュア戦略グループで得たものだ。帰国後の教育のあり方について、考えさせられた。

【Day 3】

午前中の最初の講義は、若い准教授。"Founder's Dilemmas"の著者で、ハーバードビジネススクールを「ベイカースカラー」(超優秀賞)で出た後に、ハーバードで博士を取得している。いかにも東海岸な感じで、理詰めのマシンガントークで押しまくってくる。ウォール街の投資銀行によくいるタイプだ。(西海岸のエリートは優秀なのだが、疲れたり面倒くさくなると、ま、いっかという感じで、理詰めではなくいい加減になるところもある)

で、彼も言っていたのだが、「MBAの価値は何か?」という問題だ。実際、世界最高峰の講義を受けてみてわかったのだが、彼らはコンセプトの講義はしても、具体的にそのコンセプトをどう活用するかという講義はしない。だから、「3C」にしても「4P」にしても「5F」にしても、コンセプトはレクチャーするものの、それを「どう使いこなすか?」はレクチャーしない。

その根拠は以下の通りだ。

1、多種多様な業界のバックグラウンドを持った人材が集まっており、
個別に対応する具体化はできない

2、多種多様な文化、ビジネススタイルを持った国から人材が集まっており、
個別に対応する具体化はできない

3、世界で最も優秀なハーバードビジネススクールの学生は、概念を提供すれば、
自分で具体化できる

だから、彼らの講義スタイルは、学生たちから様々な見解を提示させ、吸い上げ、それをコンセプトに抽象化、言い換えれば普遍化、昇華させるスタイルである。ただ、このスタイルは彼らが言うように、世界最高峰の頭脳が集まるハーバードでしか活用できないスタイルだろう。

多くのビジネスパーソンは、ハーバードなどの経営学者が提示するコンセプトを、どう現実のビジネスに当てはめていくか、「当てはめ方」「使いこなし方」で、相当苦労している。だから、僕が経営学の世界で価値を出すとすれば、やはりハーバードとは違う方法だ。 「与えられたコンセプトをどう当てはめれば、使いこなせてその価値を最大化できるのか?」コンセプトを生み出すのではなく、その使いこなし方を精緻に考え抜く。やはり僕は、生粋の日本人だなぁと改めて感じる。

でも、これが僕の、言い換えれば、日本人の強みであり、それを活かせばよい。

午後の講義は、講義の価値を最大化するために、どのようにITインフラを活用しているのかという講義だ。Day1でも言及したが、ハーバードの資金力は半端ではない。だから、IT投資額も相当なものだ。その結果、彼らは素晴らしい環境で、インタラクティブに講義ができ、かつ、学生の管理ができる。学生の管理とは、成績管理だけに留まらず、その後のレコメンデーションにも活用される。
このような環境があれば、学生も教授陣も自分の目標の達成スピードが速くなる。目標地へ到着するために、ハーバードは飛行機を使うが、日本の大学は自転車で自分で汗をかきながら走っているくらい違いがある。
(続く)


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