太陽光発電システムのライフサイクル評価ソフト"PV-LCA for Windows"

説明文作成日:平成15年1月16日
バージョン:1.2
動作環境:Windows98
Windows 2000
Windows ME

目次

本ソフトについて
評価対象とした太陽光発電システム
評価指標について
対象とした多結晶Si太陽電池モジュールの製造工程
ファイル構成
使用方法
計算結果について
本ソフトの構造
変更履歴


<本ソフトについて>

 このソフトは太陽光発電システムのライフサイクル分析を行いエネルギー収支やCO2排出量、製造コストを求めて、EPT(Energy Payback Time:エネルギー・ペイバック・タイム)やCO2排出原単位、発電コストなどを計算するソフトです。本ソフトは以下のリンクからダウンロードすることが可能です。圧縮してありますので解凍ソフトで展開してお使いください。

PV_LCA1_041025.lzh

プログラムコード PV_LCA1.txt

解説ファイル Readme.doc

<評価対象とした太陽光発電システム>

本ソフトにおいて評価対象とした太陽光発電システムは以下の通りです。

・太陽電池種類:多結晶シリコン太陽電池(シリコン原料に太陽電池級を想定)
・システムタイプ:住宅用太陽光発電システム(系統連系:逆潮流あり/蓄電池なし)
・システム設置形態:屋根置き架台設置型
・周辺装置:架台、配線材料、パワーコンディショナ(インバータ・開閉器など)
・システム構成機器の製造地域:日本
・システム設置地域:日本

 ライフサイクル評価は、評価対象の性能・製造技術の進展によって異なるものであることから、必要に応じた技術的前提条件の見直しが必要になることがあります。また、同じ技術的前提条件であっても想定する製造地域やシステム導入地域によっても結果が異なります。本ソフトの使用に際しては、これらの点に注意してください。
 技術的前提条件や想定する地域条件のパラメータの変更の行い方については本ソフトの構造のところで説明を行います。

<評価指標について>

 本評価ソフトでは、エネルギー・ペイバック・タイム、CO2・ペイバック・タイム、CO2排出原単位、発電コストの四つの評価指標を算出します。

(1)エネルギー・ペイバック・タイム(EPT)
 EPTは、評価対象とする太陽光発電システム導入時の初期投入エネルギー量を、システムの運用によって回避可能な年間エネルギー量からシステム運用中に追加的に投入される年間エネルギー量を差し引いた正味の年間回避可能エネルギー量によって回収するための必要年数です。太陽光発電システムの耐用年数と求めたEPTの大小関係を比較することによって、太陽光発電システムのエネルギー採算性を評価することができます。 なお、太陽光発電システムは日射の変動により発電電力が不随意に変化しますが、計算を容易にする観点から、本ソフトでは太陽光発電システムの発電電力1kWhと比較する電力供給技術の発電電力1kWhの価値は常に等しいものとしています。

(2)CO2・ペイバック・タイム(CO2PT)
 CO2PTの考え方や定義はEPTと同様です。つまり、CO2PTは評価対象とする太陽光発電システム製造時のCO2排出量を、その運用段階に回避可能な年間CO2排出量によって回収するために要する年数です。

(3)CO2排出原単位
 CO2排出原単位は、太陽光発電システムの生涯発電電力量あたりのCO2排出量であり、太陽光発電システムのCO2排出削減効果を他の発電技術と比較するのに有用な指標です。

(4)発電コスト
 太陽光発電システムの生涯発電量の1kWhあたりのコストです。

<対象とした多結晶Si太陽電池モジュールの製造工程>

 poly-Si太陽電池は、現在までのところ半導体産業から発生する規格外Siを原料として製造されている。しかし、将来の太陽電池の需要増加に対する原料供給の不確実性や原料コストの不安定性などが危惧されている。この原料供給問題を解決するために、原料Siを他産業に依存しない太陽電池用Si(SOG-Si:Solar-grade Silicon)製造技術の開発が行われてきた。わが国では、シャフト式アーク炉を用いた高純度シリカの炭素熱還元、脱炭素・脱酸素および方向性凝固からなる「NEDO直接還元法」の開発が進められ、実用化の見通しが得られている。 また、SOG-Siからのインゴット鋳造に関しては、離型材による不純物汚染や高材料コスト(石英るつぼや炉材など)、バッチ操業に起因する低生産性といった問題のある従来キャスト法に代わる新しい鋳造技術である「NEDO電磁鋳造法」が開発されている。 そこで、本ソフトではこの「NEDO直接還元法」と「NEDO電磁鋳造法」を想定したpoly-Si太陽電池の製造工程を分析対象とした。

(1)SOG-Si製造工程
 本工程では、まず原料珪石とソーダ灰を粉砕・混合して溶融し無水珪酸を製造する。さらにこれを粗砕して加圧蒸気で溶解後、不溶解物を沈降させ上澄み液を濾過し、炉液を真空蒸発で濃縮することにより水ガラスとする。この工程を通じて、ボロン(B)や太陽電池性能を阻害するリン(P)、鉄(Fe)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)などの不純物が除去される。なお、この工程では無水珪酸ソーダ製造の際に反応起源のCO2が発生する。

3SiO2+Na2CO3→Na2O・3SiO2+CO2
Na2O・3SiO2+20H2O→N2O・3SiO2・20H2O

 次に、この水ガラスと鉱酸との脱水縮合反応によりシリカ(SiO2)を析出させ、表面不純物を溶解洗浄後に脱水・乾燥させることによって5N(99.999%)程度の高純度SiO2を得る。高純度SiO2は、炭化水素から別に製造される高純度カーボンを還元剤としてシャフト式アーク炉内で熱還元され、粗精製Siとなる。なお、この際にCOガスが排出される。

SiO2+2C→Si+2CO↑+177kcal

 アーク炉から出湯した粗精製Siは、SiO2粒子中を通すことによって炭素濃度が0.1%程度から50〜80ppmに低減され、さらにシリカ坩堝中での融解による酸化脱炭によって2ppm以下となる。最後に偏析効果を利用した方向性凝固工程によってその他の不純物を除去し、6N(99.9999%)程度のSOG-Siが製造される。 なお、このNEDO直接還元法によるSiの品質については、半導体用Siを用いた太陽電池と遜色ない変換効率が得られることが確認されている。

(2)poly-Siウェハ製造工程
 こうして得られたSOG-Siを電磁鋳造炉によってpoly-Siインゴットに鋳造し、さらに切断してしてSiウェハとする。この鋳造法は磁気圧下でSiを溶融・浮遊させ、連続的にSiの溶融と凝固とを同時に進行させてpoly-Siインゴットを製造するものであり、溶融Siが炉材と接触しないことによる高品質化、無るつぼ溶融による低コスト化、連続溶融・鋳造による生産性向上、等の利点がある。実際に本方法で鋳造された22cm角型断面の多結晶Siインゴットを用いて製造した太陽電池では、13〜14%の変換効率が安定して得られていることが報告されている。 インゴットからのウェハ切断技術には、高い生産性をもつマルチワイヤーソーを想定した。これは太陽電池製造用として1984年頃にスイスのHCT-Shaping System社によって開発されたが、現在では半導体用Siインゴット切断用が主な用途となっており、世界で400台以上の設備が稼働している。マルチワイヤーソーによるSiインゴットの切断原理は、鋼線をSiインゴットに接触させて移動させ、この接触面にSiC砥粒を供給して切断していくものであり、多数の基板を一度に切断できること、切断表面の加工層が薄いなどの特徴がある。

(3)セル製造工程
 本ソフトで想定したセル製造工程は技術的に確立している高効率でかつ低コストなプロセスである。まずインゴット切断時の機械的衝撃によってダメージを受けている表面(10〜20μm程度)を除去するために、イソプロピルアルコールとKOHの混合溶液による化学エッチング処理を行う。この際、Siの結晶方位によるエッチング速度の差を利用してウェハ表面にピラミッド構造の凸凹(テクスチャ)を形成し、光閉じ込め効果を得ることができる。 次に、POCl3を拡散源としたガス拡散法によって、n型不純物であるリン(P)をウェハ中に拡散させて(850℃、30分)p-n接合を形成し、Ti(OCH(CH3)2)4と蒸留水を原料とした常圧CVDによって受光側表面にTiO2の反射防止膜を堆積させる。その後、再びKOH水溶液を用いた化学エッチングによって受光面側以外のn層を除去する。 裏面および受光面電極の形成には、生産性や材料収率に優れたスクリーン印刷法を想定した。裏面はAgペーストおよびAlペーストをスクリ−ン印刷・乾燥(200℃、1分)・焼成(750℃、1分)して形成する。なお、この際にAlを基板内に拡散し電極付近をp+層を形成することによりBSF(Back Surface Field)効果を得ることができる。一方、表面にはAgペーストを用いたスクリーン印刷によって電極を形成後、ソーラーシミュレータによってセル特性を検査し、検査に合格したセルが次のモジュール組立工程へ送られる。

(4)モジュール構造とその組立
 電力用の結晶Si太陽電池モジュール構造は一般的にスーパーストレート構造(Superstrate)である。これは太陽電池の受光面側にガラスなどの透明基板をおいて支持板とし、その下に透明な充填材料と裏面シートを用いて太陽電池を封入後、周囲を枠組みするものである。本ソフトではこのスーパーストレート構造を採用している。透明基板には、長波長光を活用する結晶Si太陽電池に適した熱強化白板ガラスを想定した。充填材には耐湿性に優れたEVA(Ethylene Vinyl Acetate)を用いることとし、防湿・絶縁のための裏面シートにはアルミニウムをフッ化ビニルフィルム(PVF:Poly-Vinyl frouride)で挟んだ構造のシート(商品名は「TedlarTM」)を用いた。 スーパーストレート構造モジュールの組立工程は、まず、太陽電池セル相互の直列・並列接続を行い、白板強化ガラスの上にEVAシート、太陽電池セル、EVAシート、裏面シートの順で重ね合わせたのち、ラミネート装置に導入する。このラミネート装置は装置内部を真空排気しながら加熱する装置で、加熱によりEVAシートが溶けて太陽電池セルがガラスに張り合わされる。 枠組みは太陽電池モジュールを屋外で長時間使う際の機械的強度の補強が目的であり、通常ではアルマイト加工を施したアルミニウムフレームが利用される。

<ファイル構成>

 このソフトは以下のファイルで構成されています。
PV_LCA1.exe:計算プログラム
poly-assumption.csv:評価対象とする太陽電池モジュールの性能および製造工程に関する前提条件を記述したファイル
RooftopBOS.csv:評価対象とするシステム周辺機器に関する前提条件を記述したファイル
materials.csv:太陽光発電システムのライフサイクルで用いられる各種素材のエネルギー原単位および単価を記述したファイル
Readme.doc:解説ファイル
LCA_summary.csv:計算プログラム実行によって生成される計算結果ファイル
PV_LCA1.txt:本ソフトのコード

<使用方法>

PV_LCA1.exeをダブルクリックしてください。
起動すると以下の画面が現れます。

「計算に進む」をクリックしてください

次の画面が現れます。


それぞれのパラメータは

・「太陽電池種類」:現行バージョンでは多結晶シリコン太陽電池のみです。
・「年間セル生産規模」:評価対象とする太陽電池セル製造工程の一年あたりの生産規模(単位:MW/年)。設定範囲は10-10000MWまで。
・「製造技術オプション」:"現在技術""近未来技術""未来技術"の三つから選択が可能。
ハ →"近未来技術"や"未来技術"では、"現在技術"に比べてセル効率の向上や材料歩留まりの改善、製造技術の進歩などが想定されています。
・「評価対象とするシステム形態」:現行バージョンでは住宅用屋根設置のみです。
・「系統連系の有無」:現行バージョンでは有のみです。
・「システム容量」:評価対象とする太陽光発電システムの定格容量(単位:kW)。設定範囲は2kW-5kWまで(標準値:3.5kW)。
・「太陽電池モジュール耐用年数」:単位:年。設定範囲は10年-30年(標準値:20年)。
・「パワーコンディショナ耐用年数」:単位:年。設定範囲は5年-20年(標準値:10年)。
・「年間日射量」:年間の太陽電池アレイ受光面1m2あたり日射量(単位:kWh/m2/年)。標準値:1430kWh/m2/年(南面30度に設置した場合の東京の平均値)。
・「システム出力係数」:モジュールの温度上昇や汚れなどによる効率低下やインバータ損失などを考慮したシステム効率。標準値:0.81。

設定を入れ終わったら「次に」をクリックします。次の画面が現れます。

それぞれのパラメータは

・「セル効率」:標準状態(エアマス:1.5、温度:25℃、日射強度:1kW/m2)における効率(単位:%)。設定範囲:13%-20%。標準値:15%(現在技術)、17%(近未来技術)、20%(未来技術)。
・「方向性凝固回数」:太陽電池級シリコン製造工程における方向性凝固処理の回数。設定範囲:0〜2(標準値:2)。
・「系統電力の熱効率」:太陽光発電システムが連系される系統における電力供給の平均熱効率(単位:%)。設定範囲:35%-40%。標準値:35%(現在技術)、37%(近未来技術および未来技術)。
・「系統電力のCO2排出原単位」:太陽光発電システムが連系される系統の平均CO2排出原単位(単位:g-C/kWh)。設定範囲:114g-C/kWh(現在技術)・100g-C/kWh(近未来技術および未来技術)。
・「年金利」:設定範囲:1%/年-6%/年。標準値:3%/年
・「年間修繕・保守費率」:初期システムコストに対する年間の修繕・保守に要する費用の割合。設定範囲:0%/年-1%/年。標準値:1%/年。
・「出荷価格係数」:システム構成機器の製造原価に対する市場価格の割合。標準値:1.47。

全てのパラメータを入れ終わったら「次へ」をクリックしてください。
するとパラメータの確認の画面が出ます。
間違っているものがあれば「はじめに戻る」をクリックして戻ってください。
すべてよろしければ「計算開始」をクリックしてください。

 

<計算結果について>

計算結果は、"LCA_Summary.csv"に出力されます(複数の計算を行う場合には上書きされますので注意してください)。このシートには以下が出力されています。



・「Selected Assumption」:計算の実行時に選択した前提条件の一覧。
・「Annual Power Generation」:年間発電量とそれによる系統でのCO2排出回避量。
・「LCA Result」:ライフサイクル評価結果。製造工程別の電力・石油・石炭投入量、CO2排出量、価格。
・「Energy Payback Time」:エネルギー・ペイバック・タイム。
・「CO2 Payback Time」:CO2・ペイバック・タイム。
・「CO2 emission rate」:CO2排出原単位。
・「Annual Cost」:年経費(コスト要因別)。
・「Generation Cost」:発電コスト。

<本ソフトの構造>

 本ソフトのフローチャートを図1に示します。また、本ソフトのコードを付録1に示します。コードに示すように本ソフトは以下のパートによって構成されています。

B-1:Si収支計算
B-2:高純度SiO2製造原単位計算
B-3:高純度カーボン製造原単位計算
B-4:SOG-Si製造原単位計算
B-5:poly-Siウェハ製造工程
B-6:セル製造工程
B-7:モジュール組立工程
BOSのLCA計算
発電コストの計算

 それぞれのパートはフローチャートに示されているサブルーチンによって構成されています。サブルーチンの中身を変更することでパートにおけるそのサブルーチンを変更することで計算全体に反映されます。
例として図1のB-5のコードの説明をします。
 
B-5:poly-Siウェハ製造工程
の中身は
'B-5-1 インゴット鋳造工程
'B-5-2 ウェハスライス工程
'B-5-3 ウェハ製造工程の建屋および空調照明
'B-5-3 ウェハ製造工程の総年間エネルギー投入・CO2排出量および年経費
の各パートに分かれています。
 
さらにこの中の、例えば
'B-5-1 インゴット鋳造工程
の中身は
'電磁鋳造炉最大処理能力
'電磁鋳造炉必要台数
'電磁鋳造炉消費電力
'電磁鋳造炉単位重量
'電磁鋳造炉単価
'(1)装置製造関連
 '年間投入エネルギー
 '年経費
'(2)直接投入エネルギー
 '年間実稼働率
'(3)人件費
というパートに分かれています。
 
そしてこの中の、例えば
'電磁鋳造炉最大処理能力
の式は
UCAP_em = 525.6 * s_ingot * r_em * sw_Si * CF_em_max
と定義しています。
ここで
s_ingot インゴット面積 [m2]
r_em 引出速度 [mm/min]
sw_Si 定数 2.34 '[t/m3]
CF_em_max 最大稼働率 [-]
です。
また、B-1:Si収支計算 '(5)SOG-Si年間生産量のなかで
s_ingot = w_ingot * l_ingot
と定義してあります。
さらにデータ配列から変数名への格納の中で
w_ingot = dbs1(147, Tech + 3)
l_ingot = dbs1(148, Tech + 3)
r_em = dbs1(149, Tech + 3)
CF_em_max = dbs1(150, Tech + 3)
とそれぞれ定義されており、dbs1であるファイル"poly-assumption.csv"からそれぞれの数値が読み込まれます。

 このような構成となっているため、ファイルの中の該当する部分の数値を変えることで簡単に条件の変更が可能であり、また、コードの中のサブルーチンの計算式の変更も可能です。条件の変更によりサブルーチンの結果が変化し、サブルーチンの変更は自動的にプログラムの最終結果に反映されます。

<変更履歴>

■修正日 2003年01月08日

(1) 「現在技術」、「近未来技術」、「未来技術」の場合分けに対応して、セル効率、熱効率、CO2排出量のデフォルトの値がそれぞれの標準値となるようにした。

(2) それまで入力された値が保存されるようにし、設定値を入力し直す際に、最初からすべて入力し直さずにすむようにした。

■修正日 2002年11月22日 Windows 2000、Windows Meに対応。