• HOME
  • 研究成果・受賞
  • 湖沼高地教育研究センターの笠原里恵助教を含む研究グループが、絶滅危惧種アカモズの保全活動についての研究成果を発表しました。

絶滅危惧種アカモズの保全活動の経過について
~3年連続の人工育雛成功と野生復帰に向けた試験実施~

2025年9月16日

 人間環境大学環境科学部フィールド生態学科岡久研究室では、豊橋総合動植物公園、長野アカモズ保全研究グループ、信州大学理学部、北海道大学地球環境科学研究院、一般社団法人野生生物生息域外保全センター等と共同で、絶滅危惧種アカモズの保全に取り組んでいます。

 3年目となる本年は、長野県内におけるモニタリングにより43つがいのアカモズを確認しました。捕食などにより親鳥が放棄した巣から37卵を保護し、豊橋総合動植物公園において人工孵卵・人工育雛した結果、9羽の育成に成功しました。アカモズの人工育雛に成功しているのは、世界で本研究グループのみであり、2023年から3年連続での成果となります。

 さらに、アカモズの野生復帰に向けた試験として、野生生物生息域外保全センターにおいて近縁種モズの自然繁殖を試み、1つがいから2羽のヒナが孵化しました。また、長野県内にはアカモズ用順化訓練ケージを設置し、モズの幼鳥の順化訓練および試験放鳥を実施しました。放鳥個体には発信機を装着して追跡を行い、野生下での定着を確認しています。

 これら一連の成果は、絶滅の危機に直面するアカモズの保全において極めて重要な前進であり、今後の飼育下繁殖や野生復帰に向けた基盤となるものです。

 信州大学理学部の笠原研究室では、このプロジェクトにおいて、長野県内のアカモズの繁殖状況モニタリングに協力しています。また、アカモズの野性個体群の安定的な存続を目指し、来年度からはモズの馴化訓練および試験放鳥にも協力を行う予定です。
お問い合わせ先
・人間環境大学環境科学部フィールド生態学科 講師 岡久雄二 Tel 0564-48-7811(代)
・豊橋総合動植物公園 専門員 吉川、主査 木谷 Tel 0532-41-2555
・信州大学理学部 助教 笠原里恵 Tel 0266-52-1955

【参考】

 アカモズ(Lanius cristatus superciliosus):アカモズはアジアに広く生息しているが、本亜種は日本のみで繁殖し東南アジアで越冬する渡り鳥であり、環境省レッドリストで絶滅危惧IB類に選定され、種の保存法において国内希少野生動植物種に指定されている。本州個体群については、2022年時点で45つがいのみが確認されており、2026年にも地域絶滅することが予測されていた。保全事業の開始以降、野生下の個体数の減少は抑えられているが、依然として極めて危機的状況が続いている。

〇長野県におけるアカモズの繁殖つがい数(繁殖モニタリングにおける確認数)

2022年 45つがい

2023年 39つがい

2024年 41つがい

2025年 43つがい

〇日本国内におけるアカモズの飼育個体数(2025年8月26日時点)

豊橋総合動植物公園      22羽

野生生物生息域外保全センター 1羽

合計             23羽

・本事業は、JSPS科研費(24K08959)、環境省生物多様性保全推進交付金、MUFG生物多様性保全研究助成、日本動物園水族館協会野生動物保護募金、東京動物園協会野生生物保全基金、サントリー世界愛鳥基金の助成及び人間環境大学奨学寄附金、田中亜美様からのご支援等を用いて実施しています。

・全ての活動は、環境省および地方公共団体による許認可のもと、関係法令を遵守して実施しています。

・繁殖地におけるアカモズの取材は、本種の絶滅を招く要因となる恐れがあります。そのため、本種の保護の観点から、日本国内の生息地については非公開とさせていただきます。

(1)経緯
 人間環境大学環境科学部フィールド生態学科岡久研究室では、以前よりトキやシロハラサギ等の絶滅危惧種の生息域外保全と野生復帰について専門的見地からの分析と提言を行ってきました。
 2023年より、当研究室が中心となって、環境省信越自然環境事務所、長野県、豊橋総合動植物公園、飯田市立動物園、長野アカモズ保全研究グループ、(社)野生生物生息域外保全センター、森林総合研究所、国立環境研究所、信州大学理学部、北海道大学地球環境科学研究院、Ecovet's動物病院等が連携した長野アカモズ保全ワーキンググループおよびアカモズ生息域外保全ワーキンググループを組織し、国内希少野生動植物種アカモズの安定的な存続を目指し、生息域内における巣の保護と救護、緊急避難的措置としての生息域外保全、越冬地および渡り中継地での情報収集、細胞の保存等の取組み等を開始いたしました。

(2)2025年の実施内容
・長野県内におけるアカモズの分布と個体数、繁殖状況のモニタリング
・アカモズの繁殖地におけるセンサーカメラを用いた捕食者の分布調査
・アカモズの巣への捕食者ガードの設置
・放棄された巣に残された37卵の保護、豊橋総合動植物公園での15羽の孵化および9羽の育成
・野生生物生息域外保全センターにおけるモズの自然繁殖(2羽の孵化)
・長野県内における近縁種モズの幼鳥1羽の順化試験および試験放鳥
・豊橋総合動植物公園におけるアカモズの順化訓練の試験実施
・アカモズの保護に関する地域住民への普及啓発

(3)今後の予定
 現在飼育している個体をファウンダー(始祖個体)として飼育下での繁殖を実施することで、飼育個体群を確保し、アカモズの短期的な絶滅の回避を目指します。また、飼育下で生まれた個体を野生復帰させる試験を実施し、技術確立を図ります。併せて繁殖地での保全活動を強化することにより、アカモズの野生個体群が安定的に存続可能な状況に達することを目指します。
MENU