受験生向け研究紹介

沼田 泰英

数学科 代数学分野

個数から眺める数学

現在の研究テーマ:ヤング図形の組合せ論
ここでは,表現論的組合せ論に関わる研究の中で私が扱う事の多い,ヤング図形というものについて少し紹介したいと思います.

\(n\) を正の整数とします. \(\lambda_1+\lambda_2+\cdots+\lambda_l=n\) となる様な,正の整数の組を考えましょう. 整数の足し算は順番を入れ替えても大勢に影響はありませんから,順番を入れ替えて \(\lambda_1\geq \lambda_2\geq \cdots\geq \lambda_l\) となるようにしましょう. これを,\(n\) の分割と呼びます. 例えば,\(5\) の分割は,次の7個です:
\(\lambda_1+\lambda_2+\cdots+\lambda_l\) を \(n\) の分割とします.この分割の情報を使って正方形の箱を並べていきます.まず,1段目に \(\lambda_1\) 個の箱を並べます.次に,2段目に \(\lambda_2\) 個の箱を並べます.これを繰り返し,\(l\) 段目に \(\lambda_l\) 個の箱を並べます.箱を並べるときには,左に詰めて並べる事にします.すると階段状に箱が並んだ図形ができますが,こうやってできた図形を \(\lambda_1+\lambda_2+\cdots+\lambda_l\) に対応するヤング図形と呼びます.例えば,\(5+3+3+1\) という \(12\) の分割に対応するヤング図形は,次のものです:
もし \(n\) 個の箱が階段状に並んだ図形があれば,各段にいくつ箱があるかを数える事によって,\(n\) の分割を作る事ができ,元の分割の情報を復元する事ができます.この事から,整数の足し算として分割を表記しても,箱を並べてヤング図形として表記しても,本質的には同じものを扱っている事がわかります.本質的には同じですので,整数の分割とそれに対応するヤング図形を同一視して,都合にあわせて使いやすい表記を使います.

さて,整数の分割は数を大きい順に並べただけのものですし,ヤング図形は箱を階段状に並べただけのものです.あまりにも単純で簡単なものですので,つまらなさそうに見えるかもしれません.しかし,単純なものだからこそ,数学の研究の色々な場面に登場し,色々な意味を持たせる事ができます.ヤング図形は,ある時は,Jordan標準形と呼ばれる行列のサイズとして現れ,またある時は,特別な半順序集合として現れます.色々な役割を演じるヤング図形は,渋い演技をする名脇役のような存在だと思っています.
研究領域:数え上げ組合せ論
私は,表現論と呼ばれる分野に現れる組合せ論的な対象を数え上げ組合せ論の視点から研究をする事が多いので,数え上げ組合せ論とは一体どの様なものなのか,ヤング図形を例に説明したいと思います.

ヤング図形とは \(n\) 個の箱が階段状に並んだ図形でした.箱が1個もないものもヤング図形と呼ぶ事にして,\(\varnothing\) で表します.\(\varnothing\) は0の分割だと思います.自分自身のすぐ上やすぐ右には箱がないという箱のことをカドの箱と呼びましょう.例えば,\(5+3+3+1\) に対応するヤング図形では,1, 3, 4段目の最後の箱達,つまり,次の \(\ast\) が入った箱がカドの箱です:
ヤング図形から,カドの箱を1個取り除くとヤング図形になります.逆に,ヤング図形に箱を1個付け加える事を考えましょう.箱を付け加える場所によっては,新しくできた図形もヤング図形になり,しかも,加えた箱が新しくできたヤング図形のカドになる事があります.その様な場所を元のヤング図形のスミと呼ぶ事にしましょう.例えば,\(5+3+3+1\) に対応するヤング図形では,1, 2, 4段目の最後の箱の右隣り達と4段目の箱の上の4箇所がスミです.

さて,\(\varnothing\) からスタートし,スミに箱を加えていって \(n\) 箱のヤング図形を作り,\(n\) 箱のヤング図形ができたら,今度は逆に,カドの箱を次々と取り除いていって,\(\varnothing\) に戻すという事を考えましょう.例えば \(3\) 箱まで箱を増やすのであれば,次の6通りが考えられます:
実際に \(n\) を変えて試してみる事で,各 \(n\) に対して何通りの方法があるかを調べる事ができます.状況を整理すると,\(1\) 箱までの時は \(1\) 通り,\(2\) 箱までの時は \(2=2\cdot 1\) 通り,\(3\) 箱までの時は \(6=3\cdot 2\cdot 1\) 通り,\(4\) 箱までの時は \(24=4\cdot 3\cdot 2\cdot 1\) 通りとなっています.実は,\(n\) 箱まで増やす時には,\(n!=n\cdot(n-1)\cdot\dots\cdot 1\) 通りの方法がある事が知られています.

さて,一旦ヤング図形の事を忘れ,順列というものを考えましょう.\(1\) から \(n\) までの整数をそれぞれ1回ずつ使い一列に並べたものを,\(\{1,\dots,n\}\) の順列と呼びます.前から順番に文字を決めていく事で順列を作ろうとすると,最初の文字の選択肢は,\(1\) から \(n\) までの \(n\) 通りです.次の文字は,最初の文字以外を選ばねばならないので,選択肢は \((n-1)\) 通りあります.さらに,その次の文字の選択肢は \((n-2)\) 通りあります.この様に考えていくと,\(\{1,\dots,n\}\) の順列の総数は \(n!\) だという事がわかります.

\(\varnothing\) から \(n\) 箱のヤング図形を作り \(\varnothing\) に戻す方法は全部で \(n\) 通りありました.一方で,\(\{1,\dots,n\}\) の順列の総数も同じく \(n!\) でした.従って,これら二つの対象の間に一対一の対応を作る事ができます.実は,この二つの対象の間の良い一対一対応が,ロビンソン対応などという名前で知られています.この対応を使う事で,ヤング図形の話を順列の話に,順列の話をヤング図形の話に翻訳する事ができます.他方ではうまく理解できないような現象も,もう一方の話として考えてみるとよく理解できるという事はあります."\(\varnothing\) から \(n\) 箱のヤング図形を作りまた \(\varnothing\) に戻す方法は全部で \(n!\) 通り"という公式からは,個数が \(n!\) という情報しか得られませんが,一対一対応があればより多くの情報を得る事ができます.

数え上げ組合せ論で最も興味がある事は個数です.端的に言えば,個数を数える事が,数え上げ組合せ論における目標の一つです.しかし,個数を数えると言っても,ただ単に個数の公式を見つけましょうという問題を解くだけではありません.個数が等しい対象を探してよい一対一対応を作り,その対応を通して,異なる研究対象の橋渡しをし,現象をより深く理解しようとするのが目的です.一見関連が無さそうな現象も,実は某かの一対一対応を通して繋がっている事もあり,そのような繋がりを発見し,現象を理解しようとするのが,ここで言う,数え上げ組合せ論です.
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