受験生向け研究紹介

保柳 康一

理学科 地球学コース 地層科学分野

未来へのパスポート 過去の地球の姿を知る

なぜ地質学を選んだのか?
皆さんは、大学に入ったらどんな勉強ができるのか、不安に思っているかもしれません。大学には、文系、理系、芸術系などの区分があって、さらに理系でも工学部、農学部、理学部など多くの学部があり、学部は複数の学科から構成されています。私の所属する理学部は、物理学、化学、生物学など、理科の授業でおなじみの名前がついた学科が並びますが、地質学はどうでしょうか?高校の教科に地学がありますが、皆さんは習っていますか?そうです地質学に関係する内容は、高校の教科では地学の中にあります。私自身高校時代には、小学校低学年時の担任の先生と高校の地学の先生の影響で、地学か物理学を勉強したいと思っていました。しかし、地学の中のどの分野が自分に合っているのかは、よくわかりませんでした。たまたま、成績の振り分けで、地質学の名前がついた学科に進学することになりました。
どんな研究をしているの
さて、このような偶然で始めた地質学の勉強ですが、先に書いた小学校の先生の影響で土いじりが好きで、多摩川の河原の石を集めている変な子供でしたので、その魅力に取り付かれて今日に至ってしまいました。今では、様々な地域・時代の地層からその当時の環境を読み取ることを研究テーマにしています。研究対象としているのは、ロシアとフィンランド国境の20億年前の地層から、氷河期が終わって新潟平野をつくった1万年前以降の堆積物や長野県内の弥生時代の遺跡の土壌まで幅広く研究しています。

私の研究は、まず対象の地層の現地調査と試料採取からはじまります。古い地層は、かつて海底などで堆積してその後の地殻変動で隆起して山になっていますので、沢などを歩いて、岩石の露出している崖を見つけて、そこから情報を取って、さらに試料を採取します。植生の少ない大陸地域では、西部劇に出てくる風景のように岩石の崖が延々と続いていることがありますから、そこをよじ登りながら観察と試料採取をします。下の写真は、私がかつて調査したアメリカ合衆国ニューメキシコ州の1億年前の地層です。
崖の下から写真を撮って、登る場所を決めて岩石の性質を記録しながら崖をよじ登っていきます。この時は、約1ヶ月の間たった1人で毎日お昼にはサンドイッチをかじりながら崖登りをしました。一方、平野を埋積した新しい地層や海底に堆積している地層の研究は、ボーリングなどによって試料を採取しなければなりません。このように世界各地に出かけて崖の調査をしたり、ボーリング調査をしたりすることになりました。このように、世界各地に出かけ、多くの人たちと出会えるのも、研究をしていてよかったと思うことの一つです。

さて、私の研究から何が分かるのでしょうか?私が知りたいのは、その地層がいつの時代にどのような場所で、どのように形成されたかということです。地層がつられる過程の復元によって、礫、砂や泥がどのように運ばれたか、また石炭・石油・天然ガスに変化した有機物の運搬と堆積の様子がわかります。下の写真は、左から順に海の波がつくった地層中の模様(リップルと言います)、0.1mmほどの珪藻化石(地層が形成された時代や環境を教えてくれる)、0.1 mm以下の地層中の有機物(石油・天然ガスの原料)です。
これらが過去の地層形成の時代と環境を教えてくれる手がかかりです。 これらの手がかりをもとに、地層が形成された時代やその時の地形、海水面の位置などを決めていきます。このように過去の地球上の風景を復元することはロマンでもありますが、実は私たちの生活に密接に関連しているのです。例えば、私たちの生活に欠かせない石油・天然ガスなどの資源探査は、石油・天然ガスを含んだ地層の堆積した環境の復元がなされるようになって、飛躍的に進歩しました。このことからわかるように、私たちの生活は地質学がないと成り立ちません。また、過去の地球の海水面の動きの復元は、今後の海水面の動きが私たちの生活にどのような影響を持つかを知る上で重要な基本情報になります。下の写真は、氷河期が終わって、今から9000年前から4000年前に平野に侵入した海の様子を復元するために新潟平野を50 m以上掘削して地層の試料を採取したときのものです。
この写真に写っている学生や大学院生、そしてほかの大学の先生と一緒に採取した地層試料を分析して、新潟平野で過去1万年間におこった多くの出来事を詳しく知ることが出来ました。
地球掘削のプロジェクトへの参加
これまで多くの地質学者・地質技術者が世界中の地表に表れた地層を調べてきました。その結果、地下深くから試料を取って、地球の中身を知りたいと思うようになるのは当然です。ただ、半径が6300km以上ある地球の内部に到達するのは、宇宙へ行くより困難です。例えば、長野県内の多くの町で使われている都市ガスは、新潟県内の深さ5〜6 kmの地層から、掘削によって産出した天然ガスです。この5〜6 kmの掘削によって天然ガスを得るためには、大変な技術と地下を推定する地質学の研究成果が必要とされています。皆さんは「ちきゅう」という船を知っていますか?この船は、最新鋭の掘削装置を搭載した研究船で、深海底を5 km以上掘削してコアと呼ばれる柱状試料を採取することができます。国際深海掘削計画(IODP)という国際プロジェクトでは「ちきゅう」(下の写真左)を含む3隻の掘削船が科学研究のために世界中の海底の掘削をおこなっています。そして、信州大学理学部もそのプロジェクトを担う機関として参加しています。その研究目的の一つに、地球環境の変遷を海洋の堆積物から知ることがあります。ジョイデス・レゾリューション号(下の写真右)を用いて、2008年11月から2ヶ月間ニージーランド沖で海水準変動を記録した地層の試料を採取するプロジェクトが進行しています。私は、このプロジェクトの共同主席研究者として、アメリカ人のもう1人の共同主席研究者などとその計画作成に取り組み、船上で研究することになっています。また、この研究の後に日本近海での同様の研究プロジェクトをおこなうために予備調査を開始しています。

私のこの文章を読んでいただいた皆さんと、野山を歩き、海洋掘削船に乗って、一緒に地球のなぞに挑戦できる日が来ることを心待ちにしています。
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