乳房再建
乳房再建には人工物(シリコン・インプラント)を挿入する術式と、自分の組織(皮弁)を移植する術式があります。インプラントによる再建は2013年7月から健康保険が適用になり、3割以下の自己負担額で治療を受けられるようになりました。一度、大胸筋の下に組織拡張器(エキスパンダー)を挿入して皮膚などを引き伸ばし、6か月後以降にインプラントに入れ替えます(2段階の再建法)。適しているのは、①乳房以外に傷を付けたくない人、②乳房の下垂がないか、あっても軽度の人、③腹部や背部の脂肪が薄い人、④再建した乳房の形にある程度の妥協が出来る人(例えば「膨らみがあれば、左右対称でなくても良い」)です。 逆に向かないのは、放射線治療後、もしくは放射線治療を行う可能性がある人です。製造元の米国アラガン社の資料では7年間で約10%に破損が生じるとされ、破損が見つかった場合にはインプラントの入れ替え・摘出が必要になります。人工物であるため、徐々に異物感や変形が目立つようになるという特徴があります。
自分の組織を用いて再建する場合には、腹部の組織を用いる方法(DIEP皮弁、腹直筋皮弁)と、背部の組織を用いる方法(広背筋皮弁)があります。腹部から皮弁を採取する場合には、腹直筋の犠牲が最小限で済むDIEP皮弁という術式を積極的に選択しています。皮弁による再建が適しているのは、①形にこだわって乳房を再建したい人、②人工物(シリコン)に抵抗感のある人です。自然な下垂のある乳房を再建したい場合には腹部を選択し、出産前などで腹部に傷を付けたくない場合には背部を選択します。自分の組織を移植するので、柔らかくて温かみがあり、徐々に体に馴染むという特徴があります。
信州大学形成外科では乳がんの手術と同時に再建を始める方法(1次再建)と、乳がんの治療後に再建を始める方法(2次再建)の両方を行っています。1次再建の場合、乳がんの手術時にエキスパンダーを挿入しておき、6か月後以降にインプラントもしくは皮弁に入れ替える2段階の方法(1次2期再建)を採用しているため、切除と再建が同時に終わるわけではないことにご注意下さい。
乳がんの進行度、胸部の状態、組織採取部(腹部や背部)の状態によって再建方法の選択に制約を受ける場合もありますが、患者さんの希望を聞きながら、最もふさわしい再建方法を一緒に探していきます。乳房再建を希望する場合は、まず乳がんの主治医に相談し、診療情報提供書(紹介状)の作成を依頼して下さい。なお、信州大学形成外科では保険適用外の術式による乳房再建(脂肪由来幹細胞移植)は行っていません。