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第4回ワークショップ

1990年代の教育改革における教職観の変容

―北欧諸国における学校選択を事例に―

長く社会民主主義国家として福祉や教育に重心を置いてきたスウェーデンであるが、 1990 年代前半には周辺諸国と同じように自由主義改革に揺さぶられた。教育の地方分権化と規制緩和、学習指導要領の改訂など、競争化の大きな波は間髪を入れずに学校に押し寄せた。この教育改革で学校現場はどのような影響を受けたのだろうか。

本発表では、福祉資本主義の 3 つの類型を範として、学校選択の 2 つのレジームを同定することを試みた。すなわち、社会主義的な学校選択と自由主義的な学校選択である。前者は学校間の競争を前提としておらず、学校内での選択コースの多様化や他校との単位互換連携などを指していて、スウェーデンでは社会民主党が推進する側にあった。後者は市場原理を擬似的に想定した学校間の競争を前提とした学校選択である。これは 1990 年代前半に政権にあったブルジョア 4 党が推進してきたもので、私立学校の設置や教育費のバウチャー制などの改革を伴ってスウ ェーデンに導入されてきた。この 2 者の対立を中心軸に据えて、 1990 年代の教育改革の影響を批判的に検討した。

自由主義者たちの目論見は、競争原理に任せた改革を進めれば学校が活性化され、全体の教育の質も向上するだろうというものであった。しかし、改革が始まってすぐに、教育現場は誤算と矛盾に直面した。地方分権化によって教育予算は改革前の一割以上削減された。これは特に教員給与の削減によるところが大きく、教職の魅力の低下と教師の質の低下という深刻な問題を生み出した。また、自由主義的な学校選択制の導入はコミュニティの中心としての学校という立場を奪い、個人主義を強調した教育を推進することになった。さらに、学校間の競争状態は機関同士の不信感を生み出し、教師たちに閉塞感をもたらしてきた。教師の質の低下と閉塞感は教育の質の低下を導き、義務教育落第者は自由主義改革以降急激に増加した。

このように、 1990 年代にスウェーデンで行われた自由主義改革は多くの否定的影響を学校教育にもたらしてきた。現在の日本においても、学校種や地域を問わず、スウェーデンと同じような改革が進められようとしている。発表へのコメントにも日本の改革との類似性を指摘する鋭い意見を多くいただいた。果たして、競争的環境は本当に学校の質を改善するのだろうか。個人の願望が集合すると社会の要求に応えることができるということは、教育分野でも適えられるのだろうか。昨今の日本の改革を考える上で、スウェーデンのこの先例が議論に資するものと考えている。

* 学習会当日は,上述のスウェーデンを中心とした教育改革(学校選択制)の話題の他に、北欧諸国(スウェーデン、ノルウェー、フィンランド)の教員養成の動向およびその政策上の差異についての報告(中田麗子)もふまえて、我が国における教員養成の今後の課題を議論した。

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