教員紹介

おおぐし じゅんじ

大串 潤児

歴史学 教授

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歴史教科書で/歴史教科書を考える

実教出版 新日本史A

  2013年8月29日、東京学芸大学・静岡大学教育学部・明治大学文学部/大学院の皆さんによって「第1回 歴史教科書を/で考える 研究会」が開催されました(明治大学)。参加者は50人程度だったでしょうか。たくさんの人が会場にあふれていました。   当日は実教出版から刊行されている3冊の教科書について、その内容分析と実際にその教科書を使った場合どのような教育実践が可能であるかの指導案の提示が報告され、活発な討論が行われました。   実教出版からは高等学校日本史教科書としては4種類の教科書が発行されています。大山喬平・脇田修ほか『日本史B』、君島和彦ほか『高校日本史B』、同『高校日本史A』、成田龍一ほか『新日本史A』です。『日本史B』・『高校日本史A/B』がそれぞれかなりまえから発行されていた教科書で、その意味では多くの実績を積んだものであるのに対し、『新日本史A』は」2013年3月に初めて検定合格した、「新規参入」のものです。そして、執筆者には私も名前を連ねています。   教科書を書く経験はもちろん初めてでした。読みやすい叙述を心がけ(高校教科書では初の試みとして「です」「ます」調にした)、図版を多様し、「問いかけ」を必ず各単元に配置する。また、叙述の方向性としては第Ⅰ部を「通史」、第Ⅱ部を「地域史」として「地域からみた日本史」という観点を重視。また、特に戦後史のスペースを増やし、サークル運動や住民運動、家族、教育、女性のライフスタイルなど、「社会」という観点を全面に出した教科書を作成することを心がけました。   研究会では、そのところが半分は理解され、半分は誤解されたようです。『高校日本史A/B』が、教育現場で使いやすいように工夫され(現場の先生が執筆者となっている)、『新日本史A』と同様(こちらが先駆的…)「問いかけ」を重視した見開き読み切り型のものであることは従来指摘されてきたところですが、今回この教科書は「民衆運動史」を重視したものと批評されました。      一方、私たちの『新日本史A』は、1990年代以降の歴史学では一つの重要な問題提起となった「国民国家」論を基礎にしたものだと評価されました。確かに、「国民」概念の歴史的差異には注意を払い、戦後史にあっても「国民」概念のあいまいさや旧植民地地域の戦後史にも視野を及ぼすなど、そう指摘されて間違いではないでしょう。しかし、ここでは執筆者にも意見がわかれるかもしれませんが、私個人としては「社会(史)」をより重視した叙述を心がけました。文化史の独特なとりあげ方、民衆運動の社会史的基礎への関心(生活記録運動や、地域ぐるみ闘争など)はそうした叙述を反映させたものです。   いずれにしても、真剣に批評してくださり、実践指導案も考えて下さった各大学の学生たちには御礼申し上げます。とても楽しい研究会でした。 ※『高校日本史A/B』については、2013年夏、教育委員会によって採択決定への「介入」が行われました。教科書は権力が決めるものではなく、教員と子どもたちが学びたいものを選ぶ、その原則を見失わないようにしたいと思います。

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