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おおぐし じゅんじ

大串 潤児

歴史学 教授

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サークル誌をもとめて

1950年代論-1つのまとめ

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2009年6月、足かけ10年にもわたる共同研究が1つの「まとめ」を世に問いました。「1950年代地域史研究会」、メンバーは多くの「世代」 にまたがり、なおかつインターカレッジで、政治・経済・文化・教育といったばらばらな領域の論文の寄せ集めではなく、史料と問題意識=歴史叙述のプロセス そのものを共有しつつ1つの総合的な地域社会史像を、うち立てようとのねらいからスタートしたものでした。

※中間的な成果については拙稿「教育史と歴史学とのあいだのいくつかの問い」(『日本教育史往来』第171号、2007年12月)のほか、以下を参照。
http://fan.shinshu-u.ac.jp/kyouin/ogushi/archives/post_7.html


対象地域を選定するにあたっては、長野県飯田・下伊那地域、岩手県盛岡市・北上市・和賀地域などいくつかの候補地が選定されましたが、最終的には神奈川県小田原市とその周辺地域に絞られました。

私は、この研究会で「青少年と社会運動」を担当し(また、もう一つ都市における生活改善運動も担当した)、地方中小都市および首都圏近在の都市近郊農村における1950年代の社会運動および地域サークル運動について分析する機会を得ました。

本書で調査できた地域サークル運動は以下のわずかなものにすぎません。

(1)神奈川県足柄下郡下曽我村(現・小田原市) 下曽我青年会・青年学級。機関誌『夜明』など。
(2)富士フィルム㈱足柄工場・小田原工場 労働組合および企業内サークル。富士フィルム労働組合本部機関紙『FFLUニュース』・『フィルム労働者』、 足柄支部機関誌:『あしがら』、同小田原支部機関誌『行進』、『青年部婦人部報』、同小田原支部『富士之友』、『あたらしい仲間』、など。

その他、断片的な史料しか揃わずに分析できなかったものがあります。特に、小田原地域の文化運動を構成するサークル、①1950年代における映画サークル運動、②1960年代以降の労音運動、については本書に反映させることができませんでした。

(1)小田原地域の映画サークル運動については、若干の聴き取りも行ったのですが、機関紙もわずかな号数しか揃わず、まとまった成果が出せませんで した。ただし副産物として、私が行った聴き取りがきっかけとなり、西湘地域北部の山北町で行われていた映画サークル活動について瀬戸照美さんが回顧録的 文、瀬戸照美「青春とロマンの自主上映会 山北映画鑑賞会の歩み」『足柄乃文化』第34号(2007年3月)を発表して下さいました。

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2006年7月、山北映画サークルについての聴き取り(瀬戸照美さん、宇佐美ミサ子さん)。


(2)小田原労音の活動については、『小田原市史』編纂の過程で機関誌『うしお』を収集しており、さらに「戦後小田原の音楽普及活動について」(井上忠彦・足利利之証言記録)もあって、材料はそれなりにあったのですが、今後の課題として残してあります。
労音運動の地域的展開は、私が暮らす長野県でもいくつかの概説に記述がある程度ですので、高度成長期の文化運動をめぐる今後の重要な論点になっていくと思います。

(3)戦時期の文化運動との関連ですが、たまたま手に入れることができた富士フィルム産業報国会機関誌(『富士フイルム産業報国会々誌』創刊号、 1940年~)の分析も果たすことができず、1950年代論を戦時社会論とのパースペクティブで論じることは課題となってしまいました。

(4)また、本研究会が史料調査に時間を費やしているそばで、1950年代の生活記録運動・サークル運動の研究は急速に進展しました。2009年に入って からでも、西川祐子・杉本星子編『共同研究 戦後の生活記録にまなぶ』(日本図書センター2009年)、上野輝将『近江絹糸人権争議の研究』(部落問題研 究所2009年)、『東京南部サークル雑誌集成』(不二出版)といった力作が発表されています。こうした成果と付き合わせつつ、近郊農村・地域における企 業・工場のサークル運動の意義を確定するしごとが残されました。

以上、成果よりは課題を列挙したにすぎませんでしたが、調査にご協力いただいた関係各位に感謝したいと思います。

 

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