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おおぐし じゅんじ

大串 潤児

歴史学 教授

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サークル誌をもとめて

サークル誌をもとめて-08年・夏・秋田県羽後町・宮城県登米町

2008年8月14日、秋田に向かいました。今回の旅の目的はいくつかあり、秋田県南部の戦後文化運動の基礎的な史料状況を把握することが第一です。
小坂太郎『北方農民詩の系譜-農民の生活と思想』(秋田書房1976年)や野添憲治編『土に生きる-秋田農村の記録』(秋田文化出版社1963年)、同 「秋田県サークル運動史ノート」(『秋田社会運動史研究』1、1968年9月)や、昨年夏に訪れた横手市立図書館で調査した『週刊たいまつ』などをてがか りに雄勝・羽後地域のサークル誌を探しました。

羽後地域は1953年頃からサークル活動がさかんとなります。知られているものだけでも、(1)金一治さんたちの『若草』、(2)柴田鉄郎さんたちの『畔生』、(3)「虹の会」、などがあります。
56年には小坂太郎さん、大野進さんも参加して『耕す人』の再建が始まります。『耕す人』は、野添憲治さんの評価によれば、県北・『秋田のこだま』『山脈』の動きとならんで重要なテーマを提起した詩誌です。

『耕す人』第17号(雄勝郡・編集発行担当柴田鉄郎編集)は特集「私の八月十日」を組みます。「すでに過去の出来事として忘れかけている人が多く なつている時に、戦争をこのような方法でサークル誌に定着させた」のは、県内では『耕す人』が最初と評価されています。柴田鉄郎は編集動機を、「私の意図 のなかには、それまで復員話や囲炉端の戦争談で語られる軍隊経験、戦争体験に、学徒兵の手記などに見られる自我意識との屈折したイメージが皆無であり、殆 どが海外旅行の幻や異常体験のロマンや、動物的な(肉体的)実力主義の世界などに、いささかの郷愁すら感じられていることえの不信であつた」と述べていま す。

こうしたすぐれた詩誌を生んだ文化運動のひろがりを確認するために、『若草』・『虹』・『耕す人』などをさがすとともに、小坂太郎さんはじめとする羽後の詩人たちの文献を集めようと羽後町に来たのです。
羽後町立図書館は1958年開館のふるい図書館でしたが、建て替えもあり、また地域の同人誌はそれとして収集して来なかったとのことでもあって、探しに来たサークル誌は全く見つかりませんでした。

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翌日からの盆踊りの準備でにぎわう市街の中心にある羽後町立図書館。

 

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西馬音内盆踊り(撮影は07年8月17日)・図書館前。

小坂太郎さんは『雪と篝火-私の西馬音内盆踊り』(民話伝承館1997年)でつぎのように述べています。

太平洋戦争下、戦局追いつめられる昭和19年と、町内出身の戦死者174名を数えた敗戦の年にかがり火は消された。翌21年に18歳の私は、小学校以来の芝居遊び仲間と復興した盆踊りにとびこんだ。
まるい故郷の空にひびく太鼓はそのまま人間再生をつげる鼓動となり、かがり火はルネサンスのかがやきをはなった。

 

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羽後町歴史民俗資料館。

西馬音内盆踊りや、戦前には移動人形劇団として著名であった野中人形芝居の展示をたいへんおもしろく見させて戴きました。



8月16日からは宮城県のいくつかの歴史関係博物館を見てまわりました。
羽後町から湯沢・鬼首・鳴子温泉をへて登米(とめ)市・登米(とよま)町に向かいます。

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登米市歴史博物館(旧・迫町歴史博物館)。

登米(とめ)市歴史博物館では伊達藩・亘理氏の居城・佐沼城下や周辺農村の暮らしのしくみがわかりやすく展示されていました。ここでは紙芝居の展 示図録を購入することが目的した。「大政翼賛会登米郡支部紙芝居宣伝班」で活躍された清野一男氏所蔵の資料展示図録です(『登米市に伝わる街頭紙芝居』登 米市歴史博物館2006年)。

その後、「みやぎの明治村」といわれる登米(とよま)町を訪れました。あいにくの天気でしたが、旧登米高等尋常小学校建物をはじめ明治の建築物が 多く残るこの登米町は、北上川の河岸にひらけ、明治期には石巻から通船「登米丸」も運行されていた物流の集積地、在郷の文化の高さを改めて実感しました。 郷土料理の「はっと汁」も美味でした。

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旧登米高等尋常小学校。

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旧登米高等尋常小学校所蔵・学校日誌。

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旧水沢県庁 庁舎。             旧登米警察署庁舎。



この日は北上川の雄大な流れを右手にみつつ気仙沼方面をめざし、南三陸町に宿をとりました。

17日、雨のなかを多賀城市に向かいます。東北歴史博物館を見学・調査することが目的です。

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東北歴史博物館。雨のなかです。

東北歴史博物館では調査のついでに行われていた企画展・「古代北方世界に生きた人びと-交流と交易」を見学しました。網走市郷土博物館所蔵の「牙 製 クマ」「牙製 海獣」の小物の実物を見ることができたのが嬉しく思いました。「牙」は「セイウチ」の牙だそうで、北極圏にいるセイウチの牙をどのよう にしてオホーツク文化の人びとが手に入れたのか、交流と交易の題にふさわしく想像力をはばたかせてくれる企画展でした。


※今回の調査には文科省科学研究費「戦後における「母」の表象の基礎的研究」の補助を受けた。

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