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おおぐし じゅんじ

大串 潤児

歴史学 教授

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三浦綾子原作・前進座公演「銃口」

2007年10月29日、まつもと市民劇場で前進座の舞台、三浦綾子原作の「銃口」を観ました。「観ました」といっても、実は、僕は松本の「前進 座「銃口」を観る会」の代表をつとめていて、事前学習会などで「三浦綾子『銃口』とその時代」について話しをしていたりするので、むしろ皆さんに観ても らった、という立場かも知れません。

今年2月、国立歴史民俗博物館共同研究「20世紀における戦争Ⅰ」で旭川を巡見してきました。屯田兵→第7師団の「軍都」としての旭川、労働運動・農民 運動の拠点、戦後は革新市政をうんだ社会運動のまち旭川、そして映画館・喫茶店がのきを連ねるモダン旭川。アイヌが住む場所でもあります。そして三浦綾子 にゆかりの街。
サークル「銃口を観る会」でも旭川の話をしました。

役者さんとの懇親会の席で、1つの感想と1つの質問をさせてもらいました。第1に、三浦綾子の原作『銃口』(現在、小学館文庫)は、90年代はじ めという執筆された時期ともかかわって「あいまいな終わらない昭和」が全面に出ていました。その意味で、原作からは「戦争についてあいまいにすませてきた 「戦後」とは何だったのか?」との重い問いかけをされました。今回の舞台は、最後に憲法9条と主権在民の話しが出て、その意味では原作と違って、「にもか かわらず存在する「戦後の初心」」、つまり希望を託されました。演出家の十島さんとも話したのですが、意識的に「新しい憲法のはなし」からの文言を取り入 れたそうです。

第2、質問は、主人公が「満洲」で抗日パルチザンに捕縛されたシーン、結果的にはかつて父親が助けた朝鮮人・金俊明によって主人公は救われるのだ が、その会話はすべてハングルであったこと、それはいつ頃からのことでしょうか?というもの。もちろん、初演では「日本語」、すばらく前からハングルとな り、韓国人からもOKがでるような実力とのこと。役者さんは、主人公と同一化してみてほしいと述べていました。

原作には「銃口」という単語を使って記述するシーンが3つ出てきます。1つめは、満蒙開拓団の「集団自決」にかかわるシーン、2つめは武器を棄て て逃げた方が安全だ、と主張する隊長に対し、部下が天皇陛下の銃をすてるとはなにごとか、と銃を向けるシーン、そして3つめが逃避行の最中に主人公たちに 向けられる抗日パルチザンの銃口です。

松本出身の役者さん、北澤知奈美さんも指摘している通り、「銃口」は誰によって、誰につきつけられているのでしょうか(『平和の種』第11号、2007.9.9)?

すばらしい芝居の感動と、重い問いを共存させた、とてもとても豊かな時間でした。

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