令和3年05月21日 取材

令和2年4月1日、医学部附属病院長に就任された川真田樹人先生に、中島男女共同参画推進センター長が医学部附属病院における男女共同参画の現状等についてインタビューをしました。(新型コロナウィルス感染症対策のため,マスクを着用したまま対談を行いました。)
※本来であれば就任時にインタビューを実施しますが、令和2年度は新型コロナウィルス感染症対策のためインタビューを見送り、令和3年5月21日に実施しました。

【医学部附属病院】川真田 樹人 病院長

[医学部附属病院における男女共同参画の現状]

中島男女共同参画推進センター長(以下「中島」):病院という組織は、学部とは違うところがあると思いますが、医学部附属病院における男女共同参画の現状をお聞かせください。


川真田病院長(以下「川真田」):医学部附属病院の教員における女性比率は20%(令和3年5月1日現在)です。ただ分野によってはかなり差があり、私の専門である麻酔科蘇生科だと40%程度が女性です。20~30代の若い世代だけで見ると逆転していると思います。また承継教員は10人程度ですが、非常勤医師を含めると、48人中26人(54.1%)が女性です。他にも皮膚科や精神科でも女性医師が増えています。外科は依然として女性医師は少ない傾向にありますが、それでも少しずつ増えてきています。また病院には医師だけでなく、看護師や技師など様々な職種の方がいます。看護師についていえば9割以上が女性です。看護師も技師も今は4年生大学に変わっていますし、その中でも博士課程に進み、医学博士を持っている方が沢山います。その方たちは診療業務をこなしながら研究もしていますし、女性も多いですが教員とは違います。

中島:専門によって男女比が異なるのは歴史的な背景が大きいのでしょうか。

川真田:看護師については、仕事の基礎を作ったのはナイチンゲールですからね。それだけでなく、勤務を3交代制にするなどしていますので女性が働きやすい環境になっていると思います。外科については、まだ昔ながらの24時間病院にいて家には帰らないのではないかというイメージや、シャワー室や仮眠室がないなどの環境面から、入りづらいところがあるのかもしれませんが、少しずつ変わってきています。本院でも奥さんが外科手術もする産婦人科医で、ご主人が麻酔科医、という昔の感覚でいうと逆転している夫婦もいます。病院の男女共同参画のためには、結局は働き方改革になりますが、24時間病院にいるような働き方だと、女性だけでなく、男性も働きにくいですからね。環境を整えて少しずつ改善してきていると思います。

中島:私も理学部にいて、昼夜2交代制で実験をしていると、家に帰るよりも大学で寝たほうがいいなという思考になることもありましたが、そうなってしまうと女性は入りにくいですし、男性も働きにくいですよね。今はいろいろなところで働き方について言われていますし、周りも変わってきていますね。

川真田:本院の麻酔科蘇生科では若い世代は女性医師が半数を超えています。病院によっては男性医師より女性医師のほうが多い場合もあります。男女で物の考え方や情緒的な部分が違うこともあるので、男性のほうが辛いということもあるようですが、女性に女性が多いと訴えると、女性は今まで男性が多い職場で我慢していたと言われるようです。ただ男性医師が多い分野でも、一緒に働く看護師は圧倒的に女性が多いわけですから、看護師も男性が増えて欲しいと思いますし、男性が増えることでやりやすくなる部分もあると思います。

中島:自分が病院で診察してもらったとき、昔の感覚でいうとここは女性だなと思うところに男性看護師がいることも多くなっているように感じました。そちら側のアンバランスも改善しているということですね。

川真田:患者さんにとっても分野によっては女性看護師より男性看護師のほうが頼りになっていいということもあると思います。

【医学部附属病院】川真田 樹人 病院長

[理系進路選択について]


中島:女性医師はバリバリ働いていて、ロールモデルも多いこともあって、医学部志望の女性は多いというイメージがありますが、実際はいかがでしょうか。

川真田:資格があるということが大きいと思います。資格があれば同じ仕事に就けますからね。我々の世代の女性医師は、他の分野と比べたときに医師の資格を持つことによって性別で差別されることはなく、対等にやっていくことができるという想いがあって医師を目指したと思います。それでも彼女たちは、若いときかなり苦労されたと思います。我々の世代だと一般企業に総合職で就職しても女性だからお茶くみをするようなことがあったと聞きますからね。あと看護師は元々女性が多いということはありますが、技師や作業療法士なども女性が増えていて、医療の世界は資格があるというものが大きく、女性が入りやすい環境になっていると思います。

中島:資格が後ろ盾になっているのですね。ここまで頑張ればこうなれる、という結果が見やすいのかもしれないですね。当センターでは男女共同参画講義を開いていて、受講生は教育学部に次いで医学部の学生が多いです。教育学部も医学部も将来、なりたい職業が決まっていて入ってくる学部ですよね。レポートを見ても目的意識を持っていてしっかりとした学生が多いという印象です。

川真田:目標が現実的でなりたいものが具体的ですが、その代わり、それを大きく変革しようという方は少ないかも知れません。しっかりしているという言い方もできる一方、資格による仕事は面白みがないという見方もできます。

中島:授業では進路選択とジェンダーという話もしていて、医療系の女子学生は女子だから看護師を選んだとか、工学部の男子学生は男子だから工学部を選んだとか、そういう傾向もあります。

川真田:工学部に進む方は親の影響や日本の産業の在り方とか、環境の要因が強いのかもしれないですね。医学部に入ってくる学生は医療の世界で働くという意思をもって入ってきます。医療はさまざまな制限が多い分野でもあるので、イノベーションを起こすのは至難の技ですから、強い野心をもった若者には面白くないかもしれません。しかし、堅実な考えを持ち、目標を決めて全科目を万遍なくできないといけませんので、むしろ女性に向いているのかもしれません。
あとはジェンダーの立場からいうと、日本は幼児教育の段階ですでに男女の型にはめてしまっているところがありますよね。外国だと幼稚園でも今日はなにをやりたいかを聞いて、あとは子どもに任せるようなところもあるようです。日本ももう少し放任でもいいと思うところもあります。

中島:小さいうちからバイアスがかかっているという研究もあります。信州大学内でそういった問題に取り組んでいるのは男女共同参画推進センターだけなのですが、紐解いていくとうちだけでは対処できない問題が沢山あります。

【医学部附属病院】川真田 樹人 病院長

[女性が活躍するために]

川真田:信大の役員会のメンバーには女性はほとんどいませんよね。医学部の教授会のほうが多いと思います。

中島:信大の役員における女性比率は20%(令和3年5月1日現在)です。もっと増やしてくださいというお願いはしていますがなかなか・・・。

川真田:医学部も女性の教授は5年ほど前まではいませんでしたが、1人、2人と年々増えています。男性だけだとどうしても議論が激しくなってしまうようなこともありましたが、女性が入ってからはいい方向に雰囲気が変わりました。

中島:男性教授で年配の方が多いときつい感じになるというのは伺ったことがあります。1人とか本当のマイノリティだと厳しいと思いますが、複数人になっていくと変わりますよね。

川真田:医学部では女性教授がお1人出ただけでも、かなり変わったと思います。逆に女性ばかりの看護師の中に男性が増えていますが、それもいい方向に変わってきていると思います。

中島:やはりどちらかだけ、というのは問題ですよね。男女関係ないと言われてしまうと何も言えなくなってしまうところはありますが、今の状況ですとまずは女性の数を増やしていかなければならないところです。

川真田:優秀な女性はもっと増えていくと思います。ただ病院の教員はまず診療というものがあります。臨床医学はフィールド研究に似ていると思ってもらえるとわかりやすいと思います。研究は診療が終わった17時以降の時間にする形になってしまうので、女性の場合は育児や家事で時間が取れないという問題もあります。ただそのハンディがあっても、優秀な女性はとても多いです。

中島:研究の時間が取れないということであれば、当センターでも「研究補助者制度」がありますが、17時以降でないと時間が取れない、となると本当に大変だと思います。

川真田:どこの大学でも週に4日は診療をして、1日を研究日にするというのが一般的だと思います。その同じ条件の中で成果を出すことで評価される分野だと思います。臨床医学の場合は、ある日、いきなり世の中が変わるというような発見よりも、例えば少し治療を工夫すると今までより少し長生きできるかも知れない、というような成果を出していく分野で、基本は患者さんに合わせることになります。そうするとやはり17時以降にしか研究ができないということになります。そこで夕方、お家から子どもを連れておんぶして研究をしていた方もいます。今より女性が増えて、女性が働きやすい環境に変わっていけばと思います。そのためには、働き方改革で変えていくしかないと思いますし、男性医師も育児休業を取得して女性医師をサポートすることも重要だと思います。

中島:医学部のような、女性が進路として選ぶことが多い学部が女性比率のようなものを示していただくと、私たちも他の学部に示していけます。

川真田:あと男女だけでなく、上司と部下の関係もちょっとずつ変わってきていて、例えば宴会で、昔のように部下が上司にお酌をするような慣習も少なくなってきました。

中島:少しずつ変わっていくといいですよね。

【医学部附属病院】川真田 樹人 病院長

[附属病院で働くすべての人のために]

中島:教員だけでなく職員の方も含めた働き方改革の取り組みのようなものはありますか。

川真田:病院には2,500人くらいの方が働いています。派遣など外部の職員も含めると3,000人以上の方が働いています。それぞれ資格を持っていて、職能として仕事をしている方が多いです。病院長だからといってそれぞれの部署にいって、皆さんからお話を聞けないので、年に1回くらいのペースで働き方についてのアンケートを実施しています。アンケートの中で男女共同参画の問題だけでなく、パワハラなどの問題もあると判断した場合には聞き取り調査も行っています。部署内での問題は外から調査しないとなかなか分かりませんからね。昔は声を上げることもできない環境でしたが、今は下から声が上がるようになってきました。病院内では男女共同参画に関する問題よりも、給料についてとか、人手不足についての問題提起が多いです。ただ昔から給与や人手不足についての不満はどんな分野でも必ずあったと思います。人手が足りるということは難しいですね。ただ結局働いていて楽しくないという不満は、ワーク・ライフ・バランスを変えたらすぐに上手くいくのではなく、恐らく家庭や職場の不満を統一的に解決していくことが必要だと思いますし、段々そうなってきていると思います。研究者として、あまり論文を書くのは好きではない代わりに、趣味が充実して満足しているというような人も増えてきたように思います。

中:若い世代ではそういうところを意識している方がとても多くなっていますよね。今日はありがとうございました。