情熱の国スペイン・バルセロナで独自の環境政策を学ぶ特別レポート

情熱の国スペイン・バルセロナで独自の環境政策を学ぶ

情熱の国スペイン・バルセロナで独自の環境政策を学ぶ

 信州大学が環境教育の一環として行っている「平成28年度環境教育海外研修」の帰国報告会が、平成29年6月26日に行われました。環境教育海外研修は、国外の環境活動について学ぶことを通じて、環境に対する取り組みを多様な視点で捉え、考え、実践することができる人材の育成を目指し、毎年、信州大学が独自で実施しているものです。

 毎年行き先は異なり、その年ごとに独自のカリキュラムが組まれます。9回目の今回、行き先となったのは、スペイン。

 研修期間は平成29年2月10日~21日で、選考で選ばれた4名の学生が、引率教員1名と共に研修に参加してきました。
その帰国報告会での発表や、学生達の感想などを交え、スペインでの12日間の研修についてご紹介します。

(文・柳澤 愛由)

・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」第107号(2017.9.29発行)より




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参加学生(※学年は研修時)
理学部理学科物質循環学コース(2年) 中城 由佳里
工学部情報工学科(2年) 狩野 貴彦
繊維学部化学・材料系応用化学課程(2年) 勝見 志穂
工学部環境機能工学科(2年) 村上 颯

引率教諭
先鋭領域融合研究群 カーボン科学研究所 遠藤 洋平 助教

スペインでの「環境教育海外研修」の狙いとは

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先鋭領域融合研究群 カーボン科学研究所 助教(特定雇用)
遠藤 洋平(えんどう ようへい)


スコットランド ダンディー大学(修士)、イタリアパドバ大学(修士)、2015年スペイン カタルーニャ工科大学(博士)修了。2016年3月より信州大学。歴史的レンガ造建築の耐震解析・補修を中心に研究を行う。

 スペインのバルセロナは大都市の機能を維持しながら、環境保全のための対策が多くなされています。私は信州大学に勤務する前まで、5年間スペインに住んでいました。そのため、今回、私が最も多くのことを学んだバルセロナを研修地としました。また、同市の大学や市役所などに、環境対策に携わる友人が複数いることも選んだ理由です。

 学生には等身大のバルセロナを体験してもらうことを心がけました。できる限り体を使って学ぶことも意識しました。私の友人が環境対策に携わっている姿を見てもらいながら、環境対策として導入されているレンタサイクルに実際に乗って街を周遊してもらったり、私が学生時代によく使っていたスーパーに共に行き、環境保護を謳った商品を探して回るという体験もしてもらいました。

 そして、欧州の世界の感覚を体験してもらうことも目的のひとつでした。欧州には多くの国々があり、それぞれ特徴的な文化を形成しています。そのような世界の一端に触れることで、極端な言い方ですが英語は欧州では英国の母国語にすぎないという感覚を体験してほしいと思いました。

 また、学生には毎日、自分たちで自身の行動を決める時間を与えていました。慣れるにつれ1人1人が別々に行動する場面もあったようで、その日のそれぞれの出来事を、1人ずつ目をキラキラさせながら自信を持って報告してくれたときは、非常に彼らの成長を感じました。

 私が信州大学で出会う学生に、講義や論文指導を通して伝えるメッセージは一貫しています。

  • 常識を疑うこと。常に自分で判断して行動すること。
  • 情熱を持って日々生きること。
  • いつも笑顔でいること。

 今回の研修に参加した学生は、私のバルセロナでの姿を見て上記の3点の意味がよくわかると思います。彼らには今回のバルセロナでの体験をしっかり自分のなかで消化して、人生の次のステップにつなげていってほしいと思います。

REPORT01 バルセロナの環境と人が共存する町づくり

中城 由佳里さん

理学部理学科物質循環学コース(2年)

中城 由佳里さん

 バルセロナは「Agenda21(※)」に基づいた独自の環境政策を行っていて、環境問題に対して熱心に取り組んでいる地域です。例えば、バルセロナの市街地は、碁盤の目になっていて、とても合理的です。公共レンタサイクルも充実していて、世界トップクラスの利用率を誇ります。「バイクフレンドリーシティ」ともいわれ、自転車だけでいろいろな所に行けます。古い建物のリノベーションも進んでいます。使われなくなった闘牛場をデパートにしたり、古い銀行がファッションブランドのショップになっていたりと、様々です。
 スペインが誇る建築家ガウディが設計したグエル公園には、商品にならなかった割れたタイルが活用されています。地中海地方の強すぎる光を拡散させるためでもあるそうです。100年以上前の時代を生きたガウディに、資源の再利用や省資源につながるような考えがあったことに驚きました。芸術と環境は一見結びつかないようにも思えますが、こうした作品があることで、環境に対する新しい意識も生まれるように思います。今回バルセロナを訪問し、人と環境に配慮した町づくりが日本と比べて非常に先進的だという印象を受けました。2020年に東京オリンピックを控えた日本が学ぶべきことがたくさんあると思います。
 また、私は環境学生委員会の委員長を務めています。この研修での経験は、委員会に取り組む姿勢を考えることにもつながりました。例えば、市役所の方々は、市民のやりたいと思うことをサポートする立場として、すごく熱心に考え取り組んでいました。
 私も多くの人が「やりたい」と思うことを実現できるように、帰国後大学で早速アンケートを取りました。今後の活動の参考にしていく予定です。この研修での経験を活かし、今後の活動につなげていきたいと思います。

※1992年6月にブラジルで開催された国連環境開発会議で採択された文書のひとつで、21世紀に向けて持続可能な開発を実現するために実行すべき具体的な行動計画

レンタサイクル

環境政策の一環でバルセロナが取り入れているレンタサイクル

グエル公園のシンボル

グエル公園のシンボル、割れたタイルで装飾されたトカゲの噴水の前で

REPORT02 カタルーニャ工科大学で感じたこと

狩野 貴彦さん

工学部情報工学科(2年)

狩野 貴彦さん

 今回、私達はカタルーニャ工科大学に足を運びました。スペインの大学の雰囲気や環境に関する講義、研究に触れ、信大生との違いについても考えるためです。
 カタルーニャ工科大学では、4つ程の講義を受けました。中でも興味を持ったのが、近代都市計画に関する講義です。環境・経済・社会―これらがバランスよく共存し、人の生活が持続可能な発展をするために、様々な要素を総合的に考えることの必要性について学ぶ講義でした。旧市街地の再生戦略や、都市の建築環境、歴史や文化を考えることも重要だという話もありました。
 また、カタルーニャ工科大学では、とにかく学生達が積極的だと感じました。座学であっても、率先してディスカッションを行い、自分達で講義を作り上げていました。海外の学生達の雰囲気を肌で感じることができたことも大きな収穫でした。
 この研修を通して、改めて、環境問題を社会全体の共通認識にし、「Think Globally, ActLocally」の精神を持つ大切さを感じました。私の専攻は情報工学です。これまで環境問題とはあまり関係性がない分野だと思っていましたが、カタルーニャ工科大学での講義や研究室への訪問で、「環境リモートセンシング」という研究分野があることを知りました。環境に関わるあらゆる情報を得るために今後必要とされている観測技術です。今回の研修に参加したことで、将来そうした研究に携わりたいと思うようにもなりましたし、大きな影響を受けました。普段から環境のことを考え、将来を見据えながら行動していきたいと思います。

カタルーニャ工科大学(UPC)のキャンパス

カタルーニャ工科大学(UPC)のキャンパス

UPCの研修室を訪問

UPCの研修室を訪問

REPORT03 バルセロナ市が進める独自の環境政策について

勝見 志穂さん

繊維学部化学・材料系応用化学課程(2年)

勝見 志穂さん

 バルセロナ市は、国とは別に独自の政策を実施しています。私達はその政策を学ぶため、バルセロナ市役所を訪問しました。バルセロナ市は独自の環境目標を掲げ、10個の行動指針が書かれたガイドブックを市民に配布しています。それに取り組もうとする団体は、指針から実施可能なものを選定し、協定書に同意をすると市からサポートが受けられます。このように環境活動について、どんな団体でも取り組みやすいように工夫されていました。その他にも市では様々な「貸出サービス」を実施しています。例えば、プラスチックコップの貸し出し。使い捨て紙コップの使用を少なくするための取り組みで、パーティー等でよく利用されるようです。
 バルセロナ市は市全体でまとまって環境活動に取り組んでおり、市民の意識も高く、全体として良い循環が生まれていると感じました。「マイクロネットワーク」という取り組みもありました。再生可能エネルギーで発電した電気を個人・団体でシェアするというものです。ただし、太陽光パネルについては景観保護との兼ね合いで普及が難しいという側面もあるそうです。環境と社会との調和の難しさも考えなくてはならない課題だと感じました。
 私は化学を専攻しています。以前、ベトナムやタイを訪問したことがあり、その時途上国での環境汚染の現状を目の当たりにしました。今回の研修は、途上国とスペインの現状を比較することで今後の研究に活かしていきたいと思い、参加しました。最初はそうした興味のみだったのですが、今回、スペインの大学で行われている最新研究について知ることもでき、興味の幅がさらに広がっています。

訪問施設で職員の方から環境に関する取り組みについて教えてもらった

訪問施設で職員の方から環境に関する取り組みについて教えてもらった

貸し出し用コップ

貸し出し用コップ

REPORT04 スペインのワイン生産における環境保護

村上 颯さん

工学部環境機能工学科(2年)

村上 颯さん

 スペインではワインの生産も盛んです。今回、私達は「TORRES(トーレス)」というワイナリーを見学しました。トーレスは、ブドウ栽培300年、ワイン製造140年という歴史を持つワイナリーで、スペイン随一のワイン生産量を誇ります。それだけでなく、経営者の環境意識が非常に高く、様々な環境保全の取り組みを行っているワイナリーでもあります。
 例えば、ワイナリーの敷地内に設置された太陽光パネル。ここで発電された電力は、工場の動力や空調に使われているそうです。ブドウの品質管理も徹底していました。広大な自社農園では、土壌の特性により圃場を分け、土壌改良を行い、それぞれに適したブドウを栽培することで農薬の使用低減を目指しています。ほかにも、年中温度が一定の地下水をくみ上げ、ワインの保管庫の冷暖房代わりに使用する配管設備や、地下水の利用を少なくするための貯水池、電気自動車の活用など、様々な取り組みがありました。温暖化が進むとブドウの収量や品質にも影響が出てきます。そのため、こうした取り組みの重要性を消費者へ率先して情報発信しているといいます。改めて、自身が活動するだけでなく、環境活動に関する情報発信や教育の重要性を感じました。
 私は将来公務員を目指しています。スペインの町づくりや歴史的な建物を活用する取り組みなどを実際に目で見ることで、いずれ、自然と調和した町づくりに取り組みたいと思い、今回の研修に参加しました。実際に訪れてみると、スペインの文化や歴史、市民の環境意識の差や日本との違いなど、目で見なければわからなかったことがたくさんありました。この経験を将来につなげていきたいと思います。

トーレスのワイン保管庫

トーレスのワイン保管庫

ワイン用ブドウの木

ワイン用ブドウの木

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