カリカリブックス(仮)OPEN!信大的人物

カリカリブックス(仮)OPEN!

カリカリブックス(仮)OPEN!

 信大生は県外出身者が7割以上ですが、地域に根差してユニークな活動を展開する学生たちもたくさんいます。「飛べ!信大生」は、そんな独創力あふれるパワフルな学生たちにフォーカス!第1弾は、信州大学農学部3年生の増川千晶さんに登場いただきました。

 増川さんは、伊那キャンパスの地元、市内の商店街の空き店舗をリノベーションし、今年2月に古本屋「カリカリブックス(仮)」をオープンしました。「地域の高校生たちに届けたい本を置く古本屋を、とにかく(仮にでも)始めてみよう」という独自のコンセプトで開店。資金はクラウドファンディングで集め、現在、商店街の人たちの協力をいただきながら運営をしています。

 オープンから約半年、その経緯と現在の思いを、"走りながら行動する"増川さんに伺ってきました。

(文・柳澤 愛由)

・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」第107号(2017.9.29発行)より

「仮」の状態でも、とにかく始めてみる

 「たとえ仮の状態でも、やってみよう、という思いを大事にしたい…そんな思いを込めて、カリカリブックス(仮)と名前を付けました。あと、高校生が『カリカリ行こうよ!』って言ってくれたら、面白いなと思って(笑)」。穏やかな口調でそう教えてくれた“店長”の増川千晶さん。現在、信州大学農学部の植物資源科学コースに所属する3年生です。

 「カリカリブックス(仮)」があるのは、伊那市商店街の一角。中央の机で勉強してもよし、おしゃべりもよし、読書に没頭してもよし、置かれている本は購入することもでき、高校生に限らず誰でも立ち寄ることのできる自由でくつろげる空間です。



寄付してくれた人の直筆コメントが入った本。本を通じた出会いを作るユニークな仕掛けのひとつ。

高校生の頃の自分にも伝えたい出会いの楽しさ、大切さ

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写真に一緒に写るのは、同じ農学部生、副店長の根石ひかりさん。

 「高校生たちに届けたい本を置く古本屋」。そのコンセプトが生まれた背景には、増川さん自身の経験から生まれたある思いがあったようです。

 増川さんは北海道の出身。高校時代は勉強、勉強の毎日で、本を読むことも少なく、学校の帰り道でも参考書を開き、周囲の景色に目を留める余裕すらないほどだったといいます。決して、読書家だったわけではないという増川さんが、「本」のさまざまな魅力を知ったのは今から2年前。信大生になったばかりの時に「ALPS BOOK CAMP(アルプスブックキャンプ)」という本のイベントで、ある本屋さんの出店を手伝い、そこの店長に勧められた一冊の本がきっかけでした。

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 「その本は『計画と無計画のあいだ』(三島邦弘著/河出出版/2 0 1 1 年)という本で、これまで手に取ったことのないジャンルのエッセイ本で…。でも、たとえ仮の状態でも、『やってみること』の大切さを知りました」。また、その時に交流した方たちのエネルギッシュな行動力や考え方に、大きな影響を受けたといいます。さまざまな人との出会いと交流の楽しさを知った増川さんは、松本キャンパスに通っていた1年生(※1)のときにも「まつもと空き家プロジェクト」を立ち上げ、空き家をリノベーションし、異世代が日常的に交流できる空間を作るなど、積極的に活動していました。その後、2年生になり、伊那キャンパスに移った増川さんは、「自分が暮らす伊那で、もっといろんな人が立ち寄れる交流空間を作ってみたい」と考えるようになったといいます。

 その時に思い出したのが、アルプスブックキャンプでの「本」を通じたさまざまな体験でした。

 「本って、本当にいろいろな出会いを作ってくれます。そんな本を通じた体験を思い出して、交流の場としての古本屋をオープンしたいと思うようになりました」。同時に、さまざまな体験をしてきたからこそ、「カツカツ生きていた高校生だった頃の自分に『もっと周り見なよ』って、今更ながら言いたくなって。今、年上の人たちと交流しているとすごく勉強になることが多いから、『私ができることは何だろう』って考えたとき、年下の高校生たちに、いろいろな考え方や価値観に出会ったり、自分自身でちゃんと物事を考えるきっかけを作ってあげることじゃないかなと思ったんです」。そしてたどりついたのが「高校生に届ける、本と出会いの古本屋」というコンセプトだったそうです。

(※1:信州大学は全学部の1年生が1年間松本キャンパスに通う)

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ミントグリーンに塗られた扉を開けると、小説やエッセイを中心とした約250冊の古本と、ここを訪れた人たちによって描かれた絵やコメントでいっぱいになった賑やかな黒板が出迎えます。

共感いただいた地域の人と協力に感謝!

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「やってみよう」と思い立ってからは、すぐに実行に移していった増川さん。同じ商店街でミツロウキャンドル店を営む方を通じて、空き物件も見つけ、商店街の方々の協力も得ながら準備を進めていきました。

 「本棚は大学の友達が作ってくれ、黒板は商店街の金物店さんが取り付けてくれました。伊那市で暮らす地域おこし協力隊の方、商店街の皆さんも内外装に協力もいただき、少しずつ形になっていきました」

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古物商許可も取得しており、置いてある古本は知り合いを通じ増川さん自身で仕入れるほか、寄付も受け付けています。ただし、寄付もいらなくなった本ではなく「高校生に届けたい本限定」というこだわりでお願いしています。

 開店資金集めをクラウドファンディングにしようというアイデアも、そうした人と人とのつながりの中から生まれたものだったそうです。募集した金額は当初5 0万円でしたが、約1か月間の募集期間で集まった金額はなんと80万円以上。目標を大きく上回る結果でした。

 クラウドファンディングを行うには、自らの思いや考えを伝える文章をWeb上で公開する必要があります。「自分でも納得のいく文章が書けたから、これで失敗したら、今やるべき時じゃないのだろう」と思っていたそうですが、結果は大成功。「全く知らない県外や地元北海道の方からの入金もあって、本当うれしかったです。大事に使わなきゃと思いました」と振り返ります。

 オープンから約半年。今では常連となった高校生もいるそうです。しかし、就職活動の時期が近づきつつある増川さんに今後のことを聞くと、「伊那の街が大好きです。でも今は就職して、一度ここを離れてみることも考えています。カリカリブックスは、後輩でやってみたいと思う人がいてくれたらいいなと思っていますが、決してお金が稼げるわけではないので強制はしたくないです」と話します。

 ただ、今はオープンから数か月が過ぎたばかり。まだまだやりたいことは多いといいます。例えば、「題名が見えないようブックカバーを付けた本に、寄付してくれた人の手書きコメントを付けて販売してみようと思っています。ただ古本が置かれている無造作な本棚じゃなくて、何でこの本が並んでいるのか、意味が伝わるような本棚にしたい。私があまりピンとこない本でも、その本を持っていた人の一言があれば、その人の言葉で高校生に伝わっていくものがあると思うから」。

 かつて、増川さん自身、北海道の地元の景色を「つまらない」と思っていたそうです。「もし伊那の高校生が同じように考えていたら、それを“面白い”に変えるきっかけもここで作ってあげたい」といいます。小さな古本屋から始まった増川さんの行動と発信は、「仮」というユニークなコンセプトのもと、ますます広がっていきそうです。

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