フランスの地球環境活動を学ぶ地域コミュニケーション

フランスの地球環境活動を学ぶ

―農業から都市交通、文学に至るまで―

信州大学では、環境問題に関する国際的な視野と知見を身に付けた人材を育成するため、毎年、「環境教育海外研修」を行っています。これは信州大学独自の取り組みで、希望する学生を募り、そのうち選抜した数名を海外へ派遣しています。
平成27年度の行き先は、ヨーロッパ屈指の観光国フランス。理学部と人文学部から4名の 学生を派遣しました。研修期間は2016年2月26日から3月6日の10日間。歴史ある街並みを 持つラ・ロッシェルが進める都市交通サービスから、ワインの名産地ボルドーで広がる「ビオ(BIO)」の流れ、そしてフランスのエネルギー政策についてまで、現地の空気を肌で感じながら、フランス独自の環境への取り組みや日本との違いを学んできました。
2016年6月22日、研修の報告会が行われました。その報告内容と共に、研修の感想や自身 の意識の変化などについて聞きました。

(文・柳澤 愛由)
・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」」第101号(2016.9.30発行)より
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参加学生( ※学年は現在)
理学部物質循環学科 佐藤 媛香さん(3年)
理学部地質科学科  黒松 邦至さん(3年)
人文学部人文学科  小林 麻紀さん(4年)
理学部物質循環学科 矢原ひかりさん(3年)

引率教諭
吉田 正明 学術研究院(人文科学系)教授
野津  寛 学術研究院(人文科学系)教授

フランスで得たもの

野津 寛(のつ ひろし)

学術研究院(人文科学系)教授
吉田 正明(よしだ まさあき)


島根大学文理学部文学科卒業。広島大学 大学院博士後期課程単位取得満期退学。 広島大学文学部助手、信州大学人文学 部助手、助教授を経て現職。
主に19世紀フランス詩の流れと特質、およ びフランス詩法、そしてシャンソンの歴史を 研究。

今回、同僚の野津教授とともに4名の学生を引率して、ボルドーとラ・ロッシェルを訪れました。ボルドーでは有機農法を実践している2つのシャトー(ワイン農園)、「ポンテカネ」と「メゾン・ブランシュ」を訪問し、ブドウ栽培や醸造過程で天体の運行も考 慮しつつ農薬や殺虫剤や化学肥料等は使わず、人為的操作を極力排して作られるワインを味わうことができました。なによりも当主のワイン作りに傾ける情熱と、先祖から受け継いだ土地を農薬等で汚染するわけにはいかないという信念が伝わってきて、学生ともども感銘を受けた次第です。また、ラ・ロッシェルでは、交換留学をしている4名の人文学部生も加わり、イヴァン・ダニエル教授の協力のもと、先進的な都市交通システムを学ぶと同時に、先方の大学生と交流の場が持てたことは、両大学の友好関係促進にもつながる取り組みとなりました。

なぜ“フランス”へ?

野津 寛(のつ ひろし)

学術研究院(人文科学系)教授
野津 寛(のつ ひろし)


早稲田大学文学部哲学科卒業。東京大 学人文科学研究科修士課程修了。
2003年、リモージュ大学人文科学研究科 博士課程修了。2015年より現職。
主に古代ギリシア・ローマの言語と文学の 受容の歴史に関して研究。

フランス独自の環境政策や状況を調べていくうちに、ラ・ロッシェルの都市交通システムが特異であることがわかりました。フランスと同様、車社会の日本でも参考になるテーマだったと思います。
また、ボルドーはワインの産地として有名な土地。「ワイン=農産物」という意識もある程、ワインはヨーロッパの農業の根幹を成しています。その中で、近年特にフランスで増加しているのが、化学農薬・化学肥料を使わないブドウを原料とした「ビオ(BIO)ワイン(※)」の生産です。実際の現場に足を運び、生産者の話を聞くことは、フランスの環境への意識を知る上で貴重な経験になると考えました。

※ビオワインとは…農薬や化学肥料が使用されないブドウを原料とし、醸造過程においても保存料等を無添加とするなど、出来る限り自然のままで作られたワインのことを指す。

信州大学からの留学生や現地の大学生との交流も行いました

信州大学からの留学生や現地の大学生

研修中、訪問したラ・ロッシェル大学では、学生達との交流の場が設けられました。そこで、フランスにおけるエネルギー政策についても話題に。なかなかフランスでは話題に上りづらいという「原発」について、大学教授と議論も行いました。温室効果ガスを排出しない電気自動車にも原発の電気が使われているというお話や、原発の危険性などについても話題になり、フランスのエネルギー政策の複雑さも感じられて、とてもいい経験となったようです。

REPORT01 フランスで「ビオ(BIO)ワイン」が広がる訳

佐藤 媛香さん

理学部物質循環学科(3年)

佐藤 媛香さん

近年、ビオワインの生産がフランスで増加しています。深刻な環境問題を前に、持続可能な社会づくりを実現していくには、どうすれば、日常的に環境配慮型の生活を送る人を増やしていけるかが重要です。フランスでビオワインの生産が増えた背景を探ることができれば、持続可能な社会づくりに向けたインセンティブについて重要な知見が得られるのではと思い、この研修のテーマに据えました。
実際、ボルドーでは、生産者の方々からビオワインへの熱い思いを聞くことができました。農業に対する強い意思や誇りも感じました。

ブドウ畑

ボルドーのワイン用ブドウの畑

ビオワインについて

ビオワインについて熱く語ってくれた

ここで私なりにフランスでビオワインが広がった理由を考えてみました。消費者にとってビオワインは、健康的である、味が良い、ストーリー性等が大きな魅力で、生産者にとっては、EUからの金銭的補助や、消費者へ付加価値を示すことができる点がメリットだと思います。
しかし、必ずしもビオワインだから高く売れる訳ではありません。生産者にとってみれば、労働量が増え、収量は減ることもあります。また、味の点でも、保存料を使わないビオワインは味が変わり易いだけでなく、人によって感じ方が違うので、評価も様々だそうです。
そうした中であってもビオワインが広まった理由は、生産者の経済的なメリットというより、農業を取り巻く課題や化学農薬使用に対する危機感が理解され、「何とかしなきゃ」と思う人がフランスで増えたからではないかと感じました。実際ビオワインは、生産者と直接対話してから購入する人が多いそうです。自分が信じる倫理観を大切にし、そのビジョンに対する共感を得ることで、ビオワインは広がりをみせてきたのではないかと感じました。

REPORT02 ラ・ロッシェルの都市交通システム「yelo」

黒松 邦至さん

理学部地質科学科(3年)

黒松 邦至さん

ラ・ロッシェルは、環境に優しい持続可能な都市交通政策を進めてきたフランス屈指の環境先進都市です。車の乗り入れを規制する「ノーマイカーデイ」を世界で初めて実施したのもこの町です。
その町の政策の柱が2009年から始まった「yelo(イェロ)」と呼ばれる公共交通サービスです。町にはレンタサイクルや電気自動車が配備され、電気自動車は月額の使用料を支払えば24時間自由に利用できます。他にも、路線バスや水上バスなど、環境に配慮した公共交通サービスも充実しています。乗り物の色は全て黄色に統一され、市民の足として親しまれていました。

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「yelo」のレンタサイクル。黄色で統一されている

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「yelo」のサービスはカードで利用することができる

日本と同じく車社会のフランス。市民の理解をどう得てきたのかを知るため訪問したのが、ラ・ロッシェル都市共同体(CDA)の共同体副議長Michel Sabatierさんです。
話を聞くと、「yelo」はもともと政府が始めたものではなく、1976年に始まった観光用のレンタサイクルを利用したいという市民からの要望がきっかけになったと教えてくれました。また、海の恩恵を受けている人が多く、環境と実生活が密接に関わっているからこそ、環境に関する政策も受け入れられ易いのではというお話もありました。
しかし、「まだまだ規制を破る人もいて、発展途上の政策。若い世代への教育を続け、次世代へつなげていくことが重要」だと感じているそうです。既に完成されたものだと思っていたラ・ロッシェルの交通政策も、課題があることを現地に来て知ることができました。しかし、環境都市のパイオニアとしての誇りを感じましたし、実際とてもすばらしい交通システムです。こうした都市交通の仕組みは、日本でも取り入れられる考え方だと思います。

REPORT03 環境問題への人文科学的アプローチを学ぶ

小林 麻紀さん

人文学部人文学科(4年)

小林 麻紀さん

ラ・ロッシェル大学では、環境に関する講義を受ける機会を頂きました。
講義を受けたのは、法律や文学、芸術などを学ぶ学生が集まる「FLASH(Faculté des Lettres,L a n g u e s ,  A r t s  &  Sciences Humainesの頭文字を取った略)」と呼ばれる、日本でいう人文学部のような所です。
講義テーマは「環境と文学」。
受講前はどんな授業なのか全く見当がつきませんでしたが、環境問題には様々なアプローチ方法があり、理系文系関係なく、様々な角度から環境問題を理解することの大切さを考える講義で、とても面白かったです。

ラロッシェル大学構内

ラロッシェル大学構内

現地の大学生との交流

現地の大学生との交流も行った

例えば、レイチェル・カーソンの「沈黙の春」は、「自然は沈黙した」というとても詩的な文章から始まります。また、ジャン=ジャック・ルソーの有名な言葉に「自然に還れ」とい うものがあります。人間の“個人の権利”が広がったことで環境破壊が始まった、という思想から発せられた言葉です。このように、歴史上、環境問題に対して人々に警鐘を鳴らしてきたのは、絵画であったり、文章であったり、思想であったり、歴史であったりしました。
環境問題を解決するためには科学的な知識が必要、理系が考えることだという意識を持つ人も多いと思います。もともと私もそうした考えを少なからず持っていました。しかし講義を聞いて、環境問題にも様々なアプローチ方法があると知りました。情報を分析して、様々な方向から物事を考える姿勢の大切さは、私自身が人文学部で学んできたことでもあります。この講義をきいて、法律・絵画・文学・歴史などからも、環境問題に通じる理念を知り、考え続けることが大切なのだと学ぶことができました。

REPORT04 港の町が抱える課題。LIENSs(沿岸環境・社会研究所)を見学して

矢原 ひかりさん

理学部物質循環学科(3年)

矢原 ひかりさん

見学させていただいたラ・ロッシェル大学と連携している研究施設LIENSs(沿岸環境・社会研究所)では、沿岸域の地形や生態、人との関わりなど、沿岸地域が抱える独自の環 境問題に関する研究を行っています。
特に、港町であるラ・ロッシェルは、洪水の調査に力を入れていました。2010年の洪水では、47人が犠牲になったそうです。南ヨーロッパとアメリカにおける海面水準の変動などを監視し、過去の洪水について歴史的な公文書からも情報を得ながら、地層学とコンピュータ モデルとを組み合わせ、洪水の発生について研究しているとのことでした。

海底の堆積物を調査する器具

海底の堆積物を調査する器具

港で堆積物を除去する船

港で堆積物を除去する船

また、沿岸地域であるラ・ロッシェルは、特産品であるカキの伝染病による大量死などが近年発生しています。地球温暖化によるものなのか産業汚染によるものなのか、調査研究中であるそうです。また、ボルドーやコニャック等の農場で使われている農薬が海の水質汚染を引き起こしている例もあるそうです。
その他にも、ラ・ロッシェルでは2年間で1mもの堆積物が港に流れてくるそうで、取り除かなければ港が埋まってしまいます。その堆積物がどこから来るのか、またどこへ運ぶべきか、などの調査もLIENSsで行っているとのことでした。
沿岸地域特有の環境問題を知ることができ、今まで聞いたことのないような課題もあり、とても勉強になりました。一部分は実際、大学で学んできたことに通じる研究もあり、興味深かったです。
この研修では、国境を越え、いろいろな人とのつながりができました。日本とは違う価値観や文化を肌で感じて、改めて様々な経験を重ねて視野を広げ、成長していきたいと感じました。

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