私は、量子力学的な粒子と量子場が相互作用する量子系を数学的に解析しています。そのような量子系の1つに、電子と電磁場の運動を記述するモデルがあります。そのモデルでは、電子はSchrödinger作用素やDirac作用素に従う量子力学的な粒子として取り扱われ、電磁場は量子場の概念で記述されます。このモデルを解析することによって、裸の電子は真空中では不安定なこと、ある条件があるときには電子のまわりに光がまとわりついた安定な状態が存在すること、原子核による引力の中では励起状態の電子は不安定でより低いエネルギーに落ちること等の様々な現象を数学的に厳密に証明することができます。
電子と電磁場を取り扱うモデルの他には、核子が中性スカラー場と相互作用するモデルや、伝導体の中の電子の運動を記述するモデルなど様々なモデルがあり、それぞれのモデルに固有の面白い現象があることがわかってきています。 どのモデルの解析にも共通していることは、まずその系の状態の集合であるヒルベルト空間が設定されていて、その上に系のエネルギーに対応する自己共役作用素(ハミルトニアンと呼ばれる)が定義されていることです。上に述べたような現象はすべてハミルトニアンのスペクトルの性質に翻訳されていて、ハミルトニアンを解析することによってそれらの現象は数学的に証明されます。系のもっとも特徴的な状態は基底状態です。これは、系の最もエネルギーの低い状態をとるハミルトニアンの固有状態です。最低エネルギーをとる時間的に不変な状態ともいえます。多くのモデルで基底状態の存在・非存在が興味の対象となりますが、一般には量子場の系の固有値方程式は具体的に解くことができません。ここに、量子場の系の解析の難しさがあります。解けない固有値方程式の解の存在をどのように証明するのか、また、存在が示された固有ベクトルの性質をいかにして抽出するかという事が私の研究課題です。