CITI Japan プロジェクトの活動は、2017年3月をもって終了いたしました。
CITI Japan e-leaning教材は、2017年4月より、一般財団法人公正研究推進協会 (APRIN)が運営いたします。詳細はAPRINのウェブサイトをご覧ください。
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対談「今求められる研究者の倫理観」対談「今求められる研究者の倫理観」

CITI Japan プロジェクトの連携6校の関係性と、今後の目標を教えてください。

対談の様子08 福嶋 : 今回「大学間連携共同教育推進事業」の公募にあたり、公開開始から締め切りまでが1カ月半ほどという短時間だったので、連携校6校は、いままで培ってきたつながりを活かして声をかけました。まず、東京医科歯科大学には、生命倫理研究センターがあり、全国組織である「医学系大学倫理委員会連絡会議」の事務局を務めていますので、最初に連絡を取りました。また、学部長とは、学会活動を通じて元々知り合いだったというつながりもあります。そして、遺伝子関係で共同研究を常に行っている北里大学、バイオセイフティーのつながりで放射性被曝の安全性についても考えたので福島県立医科大学に声をかけました。さらに、沖縄科学技術大学院大学には多 くの留学生が在学しており、日本で学ぶ留学生用に英語版を作成してもらうために連 絡を取りました。上智大学は生命倫理研究所があるので、医学研究者だけでなく人文系の先生方にご協力いただくために声をかけたのです。



市川 : 沖縄科学技術大学院大学との連携はおもしろいですよね。日本の政府は海外から多くの留学生を迎えようとしていますが、彼らにまず日本のルールも国際基準も勉強させるうえで、教材がないのは日本に来ている留学生にとっては大変なハンディキャップを抱えて卒業することになりますよね。アメリカ版CITIの英語教材では日本独自のルールは学べませんし、日本語の教科書は理解ができません。そうなると、英訳された日本版CITIは普遍性を持ち、全国の大学にとっても重要な教材になってくると思いますね。

福嶋 : それに、「倫理教育に力を入れるように」という通達は出ていますが、教育の中身を確認しないし、チェックできる人もいません。つまり、政府も倫理教育をする必要性は感じていたのですが、具体策に苦慮していたしていたのではないでしょうか。実際に、倫理教育ができる教員は全国に数えるほどしかいません。私も自分の研究と倫理教育との兼務になってしまいます。でも今回、政府もファンディングエイジェンシー(※6)の人も、諸大学や研究機関にかかる研究経費をできる限り抑制した中で目的を果たしたいという思いがあり、CITIをご説明すると「それは良いですね」と言ってくださいます。そこで、私たちは、この5年間にCITIの利用者を増やして、5年後からは、サーバーの管理や新しいコンテンツをリバイズしていくために、2000〜3000万円はかかる経費を受益者負担でまかなっていくことを目標にしています。要するに、この5年間は自立のための最初の呼び水という意味合いです。そういった点も文科省から高く評価されているのではないでしょうか。

対談の様子09 市川 : 受益者負担という方法をとったのは、国からの支援は長続きする保証がひとつもないからです。省庁の人事異動によって担当官が変わったら終わりになってしまう事業も少なくありません。プロジェクトを継続するためには、公的資金に頼らない仕組みを作るべきです。だから公的組織ではなく、NPO法人を立ち上げましたし、実際に文科省の倫理担当官からも民間団体にしたほうが良いと言われていました。でも、受益者負担にするためには、利用者を増やして、一校あたりの負担額を減らし、受け入れやすくする仕組みを作らなければなりません。

ただ、こういった教材利用のための費用は、本来は各研究機関に交付される科研費の30%を占める「間接経費(※7)」でまかなわれるべきものなのに、いまはほとんどが電気代や水道代、清掃員の人件費などで全て使用されています。正しくは、例えば権威ある先生を呼んで講演してもらうというような施設全体としての教養を高める費用が含まれているのに、そういった認識は研究者の間では薄いのが実状です。文科省は、2001年に、この間接経費の制度を導入したのですが、その前に僕に「アメリカにある間接経費というのはどのような目的か」と電話をしてきたことがありました。その際、説明をしたのですが、まさにいまならCITIの利用料として使われるべきものです。しかし、いまCITIを導入しても間接経費はすでにほかの目的ですでに使われています。だから、これは冗談で言うのですが、間接経費を交付するのが早すぎたように思いますね。間接費はCITI教材ができてから配分を始めればよかった(笑)。


福嶋 : それと、倫理についての考え方やコンテンツ作りは、とにかく研究を進めたい研究者にとってはブレーキ役になってしまうと思われがちですが、本来は障害物にぶつからないように進めるハンドル役であるということを各大学や研究機関に伝えたいですね。新しい技術が出た時に、それを使いたいという研究者に対して、考え得る危険性を訴え、それに対して止まって考えるのではなく、その障害物を避けて通りましょうよと示唆する役目です。そして、そのコンテンツを作るのは、研究者だけでも倫理学者だけでもいけません。両者がディスカッションする場があれば良いのですが、いまはガイドラインを作る場合にしかディスカッションをする機会がありません。しかし、往々にして、ガイドラインというのは研究者はできるだけ緩く定めたいものです。そして倫理学者は研究の中身を正確には把握していないという問題があります。だから研究者側は、その倫理学者が考えるリスクを理解して、回避する方法を一緒に考えていくプロセスが必要になります。それに、ガイドラインはどんどん古くなりますから、研究の進展に追いつきません。今回の教育コンテンツ作りは、書籍を作る訳ではなくてネット上で改編できるので、リアルタイムで要求されることを次々書き加えていけば良いのです。


市川 : 書籍によるガイドラインですと、時間が経てば古い指針か新しい指針かわからなくなってしまいます。その点、ネット教材は決して古いものは残っていないので、非常に明確で時代性にも即応しています。


福嶋 : あとは、その教材に対してフィードバックをかける仕組みは作っていますが、qualifiedという「お墨付き」を常に得ている必要があるので、この5年間でどういうプロセスを経てどこで認証を得るかが課題ですね。


市川 : 利用者の意見や批判をフィードバックとして取り込むということが標準化のひとつのプロセスですし、アメリカ版CITIはそのようにフィードバックを積み重ねることで、10年を経て非常に高い信用性があります。だから、我々の教材は、ナショナルスタンダードというのを目指すと同時に、グローバルスタンダードを目指したいですね。グローバルスタンダードを目指す際、アメリカ式、キリスト教式が日本式に合わなければ、すべてを併記しておけば良いのです。倫理教育においては、さまざまな考え方があるという「考える力」を育てることが重要なので、異なる考え方があって構わないと思っています。

福嶋 : ただ、こういった取り組みは評価が厳しいので、その都度実績を積み上げて残していかないといけないと思っています。これは研究費ではなく事業費だから、私自身もしっかりやらないとと気合いを入れて、気を引き締めていますね。

最後に「Shinshu University is the highest university in japan(信州大学は日本で最もレベルが高い大学です)」、このキャッチフレーズで締めたいと思います。「above sea level (標高で)」という言葉が後に続くんですけどね(笑)。海抜600mにある大学は信州大学しかありません。でも、標高だけではなくて、こういう医学教育、論理教育でも高みから望みたいですね。信州大学で私が全国に先駆けて作った遺伝子診療部も、2003年に全国遺伝子医療部門連絡会議を始めて10年を経て、今は80ある全ての日本の大学が参加することになりました。同じように、CITIも全国に広がっていくと強く期待しています。

※6/公募により優れた研究開発課題を選定し、研究資金を配分する機関。提案された課題の中から、実施すべき課題を採択し、研究者・研究機関に対して研究費を割り当てる。
※7/研究に直接関係のあるものをまかなう「直接経費」に対して一定比率で手当てされ、研究機関が研究遂行に関連して間接的に必要とする経費。光熱水料、研究で使用する研究施設のインフラの維持経費、事務の管理経費、共同研究・受託研究の実施にあたってのインセンティブ経費として全体的な見地から使用され、研究環境の改善や研究機関全体の機能向上のために使用することができる。

対談の様子10 プロフィール
福嶋 義光教授

福嶋 義光教授
信州大学医学部長
CITI Japan プロジェクト事業統括

■略歴

  • 北海道大学医学部医学科 卒業
  • 神奈川県立こども医療センター遺伝科医員
  • 米国ニューヨーク州立ロズウェルパーク記念研究所人類遺伝部客員研究員
  • 埼玉県立小児医療センター遺伝科医長
  • 信州大学医学部附属病院遺伝子診療部長(兼任)、信州大学医学部長を経て2011年10月より現職

市川 家國教授
バンダービルト大学医学部小児科学・内科学・生命倫理学教授
信州大学特任教授(教育)
東海大学非常勤教授
CITI Japan プロジェクト副統括

■略歴

  • 慶応義塾大学医学部 卒業
  • UCSF心臓血管研究所研究員
  • ハーバード大学小児科学准教授
  • バンダービルト大学内科学教授
  • 東海大学医学部専門診療学系小児科学教授、基盤診療学系生命倫理学教授を経て2012年より現職
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