CITI Japan プロジェクトの活動は、2017年3月をもって終了いたしました。
CITI Japan e-leaning教材は、2017年4月より、一般財団法人公正研究推進協会 (APRIN)が運営いたします。詳細はAPRINのウェブサイトをご覧ください。
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対談「今求められる研究者の倫理観」対談「今求められる研究者の倫理観」

そのような状況のなかで、CITI Japan プログラムを成功させるキーは何でしょうか。

対談の様子05 福嶋 : 今回の推進事業の公募に際しても、審査員からは「どのようにして教育ツールを勉強し始めるモチベーションを与えるのですか」という質問が来ました。私はとにかくスタートしてみればその意義がわかると思っていますが、そのためには、最初はある程度の強制力を行使しても仕方がないと思っています。大学の単位として必修にすれば倫理を学ぶ時間は無駄ではないと思えるでしょうし、結果的に一流の研究者が知っていて当然な考え方が身に付き、個々人の知的財産になると信じています。実際、私自身もそうでしたからね。このハードルの一歩をいかに踏み出すかが、教育ツールの課題です。でも、倫理教育というのは研究の安全性にも関係しますから、将来研究者を目指そうと進み出した大学院生にとっては、実験手法を学ぶ以前の、最初の教育になるべきだと思いますし、国が研究費を出す際にも倫理教育を受けているかどうかは必要になって来るでしょう。そのためにも、まずは各大学に、とにかく単位化してCITIをやり始めてくださいとお願いする予定です。こういう素晴らしいコンテンツがあっても、学習をするもしないも自由という利用環境では広がっていかないですし、現在はどうしても早く研究をして良い論文を書かなければならないという成果主義にいきがちなので、倫理教育は二の次、三の次になってしまいます。そこで、やはり第一歩は強制力を使うより仕方がないかなと思っています。

市川 : 実際にアメリカも強制力を持って倫理教育を徹底しましたし、イギリスでもCITIの教材を義務化して、その結果、使用前と後では利用率が5%から95%に上がりました。アンケートを取ってみても「やってみて良かった」「これからは自分も積極的に倫理の推進者になりたい」という意見が大半を占めていました。「やらされていた」という認識から「もう少し主体的に社会の物事を考える立場になりたい」と気持ちが変化したのです。CITIにはそういうおもしろさがあるのではないかと思っています。

また、このようなトップダウンの仕組みを作った場合、日本の政府は「義務化することで、今度はそれを監視するオフィスが必要になる」と指摘します。でも、僕は文科省に提出する研究申請の書類にCITIの教材が取り扱っている「XXXXという複数の研究倫理項目を勉強したか」のひと言を添えてくれれば、その問題は解決すると思っています。それを「NO」と答えても審査に落ちる決まりはないのですが、そのような質問を設定することで、CITIをやらなければいけないというプレッシャーにはなります。だから、あえて監視のオフィスを作る必要はないと思っています。

CITI Programがアメリカ国外で使用された例はこれまであるのでしょうか。また、医療分野以外にも応用され得るのでしょうか。

対談の様子06 市川 : なかなか進展しない日本の倫理教育に対して、アメリカでは、倫理の専門家と研究者で教材を作っていくうちに、世界的な倫理基準すらできてきたと言える状況にあります。僕が10年在籍していたハーバード大学でも、6000人ほどいる医学部の教員全員がCITIの教材を使っています。このように良質なe-learning教材を小さい国で作るのは難しく、特にその国の言語に即して作るには困難が伴うように思います。だから、いまはいくつもの国がCITIの教材そのものを使い始めています。日本の場合は、CITIの骨組みに日本の法律や文化、思想に沿った肉付けをして「日本化」することで、CITIそのものを使う以上の利用価値があると考えています。いまは中国も韓国も、僕らの教材を真似て作ろうとしています。

そういう意味ではおもしろい話があります。NASA(アメリカ航空宇宙局)が各国と共同して行っている国際宇宙ステーションを使った研究がありますが、そのなかで、NASAは「宇宙空間でアメリカの研究者と海外の研究者が共同で人体を用いた実験を行う場合も、海外の研究者にはアメリカの研究者と同様の教育を受けていることが求められる」というルールを米国政府が定めています。つまり、もし外国の研究者がアメリカの研究者と共同研究を行う場合には、CITIを勉強していないと、このルール下にあるアメリカの研究者がNASAの研究を遂行できなくなる。それで、当初、ロシアとイギリスは、なぜアメリカ式のルールに従わなければならないのかと反論しましたが、結局は従うことになり、いまは多くの研究者がCITIを学んでいます。そして最近、僕らのところにもJAXA(独立行政法人宇宙航空研究開発機構)のスタッフが来て、CITI日本語教材の使用を始めたのです。つまりCITIの利用者が徐々に広がり、工学の世界でも使われ始めて、その教育内容が国際標準になりつつあるのではないかと思っています。

対談の様子07 福嶋 : ねつ造や改ざんというのは、何も医学研究だけに関わることではありませんし、研究者としての第一歩は考えるべき共通部分が多いので、工学系、理系、あるいは人文もそうですが、幅広くCITIを利用していただきたいですね。不祥事というのは圧倒的に医学研究が多いため、まずは医学部からの普及になりますが、いずれはその他の学問分野でも取り入れてほしいと思っています。文科省の科研費等を支給するようなJSPS(※4)やJST(※5)も、それを期待しています。

それに先駆けて、信州大学では、実際に医学系以外の教育にも使い始めようとしています。今年、理学・工学・農学・繊維の理系4学部で共通の大学院を作ろうという話があり、その教育方法として、来年の4月からCITIを使う方向で進んでいます。そのなかで、さまざまな専門家から「この質問項目はあまりに医学系に偏りすぎているから、もっとこうしたほうが良い」というようなご意見もいただけると思っています。


市川 : ねつ造というと、一般的には何となく「悪いことをした」という意味合いに捉えられていますが、研究の世界では、例えば、効くと立証された薬が本当は効かなかっただけでは済まされず、後追い研究をする学者が出て来ることに問題があります。一度確立した研究結果を反証する論文はなかなか通りにくいという現実があるため、反証を立証するためには、最終的に5~6人の研究結果が必要となります。そうなると、結果的に大変な時間と経費の無駄ですよね。CITIは、そういったねつ造の問題の深さを教えていく教材です。ねつ造をすることで、せいぜいジャーナリズムに叩かれるだけで終わりという問題ではないと、研究者に気付かせてくれます。我々が倫理教育の必要性を強く訴えているのは、そういった問題もあるからなのです。


福嶋 : ねつ造も、実験室で自分しか研究結果を見ていないので、グレーゾーンが多いのですよね。何回か実験をやっていると、不都合なデータは自分で理由付けをして省いたり、有為差のあるデータだけを集めて論文を仕上げてしまうこともあるかもしれません。そうすると、最終的には1人ひとりの研究に対する真摯さが問われることになります。CITIはそういった倫理観も指摘してくれる教材です。それに、先ほど話題にあがったauthorship(著者)についても、誰を共著者にするかという方法を教えてくれますよね。


市川 : いまは共著になる場合にはサインを求められますよね。M先生の場合は、共著者の一部の方々はどうやら全く知らされずに名前を使われていたと新聞には書いてありました。CITIを学べば、そういった問題も回避できます。それと、共著者としては、その教授の名前を記載しておくと論文に信憑性が増すといった「Gift author」や、その教授の名前を併記しておけばプロモーションに役に立つという「Political author」の問題点があります。そういったものも、CITIは指摘してくれます。

一方、ねつ造という点においては、「こうだったらいいな」というデータを自分の個室の壁に貼って、他人に見せないで個人的に楽しむことはいくらでもやって良いとCITIに書かれているんですよね。社会的影響が全くないですからね。そういった細かい点や身近な行動についても知ることができる教材です。


福嶋 : 不正行為というのは、現在の研究の裾野の広さもあって、法的な規制や処罰では取り締まり切れなくなっています。○○先生の場合も、社会に混乱を招いたけれども、公文書偽造ではないので犯罪とは言えません。研究者のふさわしくない行為は、法的に規制することはできないのですよ。そこで教育が必要となってきます。

市川 : 研究の不正に関しては、データのねつ造だけでなく、正しいデータを全部掲載したうえで、自分の都合の良いようにデータを解釈するのも問題です。これは絶対に処罰はされませんが、こういった研究が許されてしまえば社会はたまったものではありません。それを気付かせていくのがCITIの教材です。

※4/JSPS=日本学術振興会:文部科学省所管の独立行政法人で、同省の外郭団体。学術研究の助成、研究者の養成のための資金の支給、学術に関する国際交流の促進、学術の応用に関する研究等を行うことにより、学術の振興を図ることを目的とする。

※5/JST=独立行政法人科学技術振興機構:科学技術振興を目的として設立された文部科学省所管の独立行政法人。文部科学省の競争的資金の配分機関のひとつで、新技術の創出に資することとなる科学技術(人文科学のみに係るものを除く)に関する基礎研究、基盤的研究開発、新技術の企業化開発等の業務及び我が国における科学技術情報に関する中枢的機関としての科学技術情報の流通に関する業務その他の科学技術の振興のための基盤の整備に関する業務を総合的に行うことにより、科学技術の振興を図ることを目的とする。

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