信州ブックレットシリーズ003
28/32

26電子廃棄物解体産業が入ってくることによって,はじめは経済的なメリットのほうを取りました。ところが貴嶼がネックになって,せっかく国家から与えられた「環境保護模範都市」という称号が危なくなった。そこで,必死になって対策を始めるわけです。 具体的には,市の政府の下に,村役場みたいな支所があるわけです。そこが対立して,典型的なNIMBYになった。つまり,汕頭市としては「環境保護模範都市」という称号を維持したい。もう少しきれいにしたい。しかし,貴嶼村にとっては,これが貴嶼経済の最大の所得の源泉になっているから,電子ゴミ産業を続けたい。現地経済の支柱であり,農家にとっても主要収入源で,農産物だけでは,とてもこんな現金収入はない,と抵抗する。1,600万元以上の税収が,実際に入ってくる。家族関係,宗族の力も強く,多くの家庭が従事している電子ゴミ解体産業を,強制的に禁止することは,大変難しい状態でした。 それで,どうしたのか。取りあえずは,見かけはきれいにしよう,外国人に見せても恥ずかしくないものにしていこうということで,深刻な汚染を引き起こす処理方法を禁止しました。具体的には,野焼きの禁止です。河原でプラスチックゴミから古いパソコンまで全部焼いていたのが,禁止されました。そうしたら,家の中で焼くようになった。ただし外に見えるかたちでは,煙が立ちのぼる状態を少しでもなくすようにした。 それから,相互監視グループをつくりました。戦時日本の隣組,5人組のようなものを設置して,違反者には罰金を科すようにした。でも,その5人がお互いにグルになり,汚い仕事に従事していれば,誰も告発しないわけです。 大量で深刻な汚染をもたらしている工場は,閉鎖・停止し,焼却炉も廃止しました。これも,市のほうから,ひどい工場を見つけて告発すると,「はい,分かりました」とその工場だけはつぶすのですが,隣に似た施設を持っていて,同じ親族の同じ家族のネットワークの内部で作業場を移す,ということが行われている。 住民の他産業への転換を奨励することも,一応,行われています。ただし,他産業に転換できるのは,この商売で儲けた現地の,先ほど述べた「地元人」,

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です