信州ブックレットシリーズ6電子書籍版
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ジ」(Nudge)の機能を持っていたと考えられます。ナッジとは、「人の肩などを軽く叩いて、ある種の行為の実効を促すこと」を指す言葉です。 要するに、この社会実験からわかったことは、人間が倫理的になるには、それほどお金は要らないということでありまして、ニコニコマークをうまく活用すればいいわけですね。 実は、中込正樹 青山学院大学教授が、「ニューロ・エコノミクス(神経経済学)」という最先端の経済学をやっていまして、このニコニコマークというのが人間の脳にどういう作用をするのかという観点から、理工系の先生方と協力して、サンマルコスの実験のフォローアップをしました2。その結果、ニコニコマークを見ると、人間は、脳が反応する、脳全体が活性化するというんですね。このことは、つまり、人間は「倫理」というもの、あるいは「社会規範」、そういったものに対しては、本来的に、非常に強い反応をすることを示唆しているのではないかということです。 ここまでは一応、科学が解明したのですが、この先が、ちょっと興味深い議論になります。私の友人に言わせると、これまでの経済学では、脳の本質的な作用とは違うことを社会に振り付けて来たのではないかというんです。 経済学の父と言われるアダム・スミスは、国富論の中で、有限責任の株主により構成される東インド会社のような株式会社について、その責任体制に疑問を呈していたのですが、その後の経済学は、皆さんご存知のように、株式会社や市場システムを社会の基礎として、理論を構築して来ました。先ほど紹介したフリードマンなど立派な経済学者は、バーチャル(仮想的)な経済学の論理に従って、「企業は利益2 中込正樹(2012)参照。89

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